フジ中江功監督「腹を括って」初の舞台演出「新・熱海殺人事件」歴史継承しつつラブストーリー要素も色濃く

[ 2021年6月15日 10:00 ]

フジテレビ中江功監督が舞台の演出に初挑戦した「新・熱海殺人事件」
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 劇作家・つかこうへい氏の伝説的舞台「新・熱海殺人事件」が改修を終えた“演劇の聖地”東京・新宿の紀伊國屋ホールの柿落とし公演として今月10日から上演中。「プライド」「Dr.コトー診療所」「教場」など数々のヒットドラマを手掛けてきたフジテレビの中江功監督(58)が舞台の演出に初挑戦した。

 <※以下、ネタバレ有>

 紀伊國屋ホールは1964年(昭39)開場。文学座、こまつ座などをはじめ、80年代の小劇場ブームを巻き起こした夢の遊眠社や第三舞台など名だたる劇団が上演を行い、2003年には菊池寛賞を受賞した。耐震補強と内装一新のため今年1月末から改修工事が行われ、今回、新しく生まれ変わった。

 「熱海殺人事件」は73年(昭48)に初演された、つか氏の代表的戯曲。74年に“演劇界の芥川賞”と呼ばれる第18回岸田國士戯曲賞を最年少受賞(当時)。以後、紀伊國屋ホールを拠点に再演され、同所57年間の歴史上、最も上演され続けている。主人公・木村伝兵衛部長刑事は初代・三浦洋一さんから、風間杜夫(72)阿部寛(56)山崎銀之丞(59)馬場徹(32)味方良介(28)ら錚々たる俳優が演じ、バトンをつないできた。

 警視庁の捜査室。木村伝兵衛部長刑事、富山県警から転任した熊田留吉刑事、水野朋子婦人警官が容疑者・大山金太郎の取り調べを始める。大山金太郎は何故、殺人を犯したのか――。

 今回は、木村伝兵衛役は荒井敦史(28)が紀伊國屋ホール改装前最終公演となった「熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~」(今年1月)から続投。熊田留吉役を多和田任益(27)、水野朋子役を元乃木坂46能條愛未(26)とAKB48総監督・向井地美音(23)がダブルキャストで、大山金太郎役を三浦海里(24)と松村龍之介(27)がダブルキャストで演じる。

 10日の初日。特に荒井は「熱海殺人事件」特有の早口の台詞回しを完璧に仕上げ、2時間ノンストップの圧巻の演技を披露した。おなじみの時事ネタを随所に散りばめ“改装イジり”も加わり、いつも通り笑いもふんだん。初日の紀伊國屋ホール新装開場記念公演は、つか氏の愛娘・愛原実花(35)がゲストヒロインとして水野朋子役を熱演した。

 つか氏の戯曲を数々演出もしてきた今作の総合プロデューサー・岡村俊一氏(59)は「北の国から」シリーズなどのフジテレビ・杉田成道監督(77)と舞台「幕末純情伝」などでタッグ。後輩の中江監督も20年来の知り合いで、舞台演出のオファーも何度もあったが、スケジュールの都合や「舞台なんて自分には無理。映像で育った人間には違う分野。手を出してはいけないもの」といった思いもあり、実現しなかった。

 それが今年2月頃のオファーには二つ返事でOK。スケジュールも好都合で「まさにタイミングがバッチリ。決まる時は、こんなものですね」。ただ「電話を切ってから、あの『熱海』だぞ、と。少し怖くなっていました」と苦笑い。それでも「過去の映像も少しだけ研究しましたが、マネをしても仕方がないと、腹を括って臨みました」と心境を明かした。

 稽古は5月1日から5週間。大枠の演出については「こわだりは全部と言えば全部ですが、長く歴史のある作品なので、今回の座組の役者でしかできないものを作りたい、とは思いました。彼ら彼女らの個性を生かした『熱海』になればいいなぁ、ということは意識しました」とプランニング。初挑戦の苦労は「あまりありませんでした。反応が良く、覚えも早い、気持ちのいい役者ばかり。経験者と初参戦の役者がうまくコミュニケーションを取ってくれていましたし、楽しく稽古に取り組めました」と総括した。

 さまざまなバージョンがあるのも「熱海殺人事件」の特徴。稽古に入る前、岡村氏から「変えますか?変えませんか?」と聞かれたが「基本構造は決まっていますので、新しい解釈で変えてもいい、ということらしいのですが、『いやぁ、歴史ある古典みたいなものなので、変えません。役者が変われば違うものになるでしょうから、前回と同じ本でやります』と。ただ、稽古が始まると面白くなって、少しずつ手を加えていきました。稽古の最初の頃は過去のバージョンを色々引っ張り出したりして、このシーンは当初こうだったとか、この台詞はこういう理由でこうなったとか、歴史を教えていただいて、それが楽しかったです。私も何度か見ていたので、自分が気になっていた部分や見ていて分からなかった部分を自分なりに直したり足したりカットしたりして、日々稽古で作っていきました」

 今回は能條の婦人警官・水野朋子に“エロ”、向井地の水野朋子に“ロリ”などキャラクター付けを鮮明に。中盤のダンスシーン、おなじみの“寸劇”コーナーは前回公演から大きく変更した。終盤のクライマックス、容疑者・大山金太郎と同郷の幼なじみ・山口アイ子のシーンは「2人の会話が増えていますし、ラブストーリー要素が足されていると思います。そこは、自分らしさかもしれません」と腐心。

 「毎日、稽古ができて楽しかったです。あっという間の5週間でした。そもそも舞台なんて自分が演出するとは思っていなかったので、自分でもよくやったなぁ、と思っています。言葉で説明するのは難しいんですが、舞台でも(ドラマのように)ちゃんとカット割りがあることが体感できてよかったです」と充実の笑みを浮かべた。

 初日は客席から見守り、スタンディングオベーションを目の当たりに。「自分が過去に見に行った舞台でもあまり経験ないことでしたし、もちろんドラマではあり得ませんし、映画でも経験はありません。客席で見ていたこともあり、始まってしまえば役者のものなので、自分が体感した、という感じは全くありませんでした。当日の出来も良かったので、私も拍手をしていました。生で反応が分かるというのは怖さもありますが、うれしいことです。いいですね、あの感じは。役者をやりたくなりました…ウソです(笑)。結論としては、また舞台を演出してみたいです」。中江監督の次のチャレンジも期待される。

 16日は通常公演を行わず、トークイベントを開催。「熱海殺人事件」の歴史も振り返る。公演は21日まで。

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