球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

バックナー氏の訃報で「世紀のトンネル」再び焦点

[ 2019年6月2日 05:30 ]

 5月27日、ビル・バックナー氏(69)の訃報が流れた。記事は氏の輝かしい球歴より、一つのエラーに焦点を当てる。1986年のメッツ―レッドソックスのワールドシリーズ(WS)、レ軍3勝2敗で迎えた第6戦。レ軍は延長10回表に2点を加え5―3とリードした。しかし、その裏、2死からメ軍の3連打で1点差。そして一、三塁で迎えたムーキー・ウィルソンへの暴投で同点とされ、さらにウィルソンの平凡な一塁ゴロをバックナー氏がトンネルしてサヨナラ負けだ。王座にあと1球での転落。

 この場面を記者は現場で“見た”。ただし、中継局の小さなモニターテレビで。レ軍68年ぶりのシャンパン・ファイトを見ようと記者席からクラブハウス内が見える階下通路に移動していた。選手ロッカーはビニールでカバー、テーブルに大量のシャンパンが並び、祝宴準備は万全だ。担当記者たちは興奮していた。皆のヒロインは10年前のオーナーの死後、チームを引き継いだ夫人のジーンさん。皆が思い描く優勝原稿は吹き飛んだ。監督会見室に駆けだす記者たちと入れ替わり飛び込んできた一団がビニールを引きはがし、シャンパンをボックスに詰め…アッという間にクラブハウスは空っぽに。この場面が一番印象に残っているのだから、我ながら情けない。翌日は雨、順延の第7戦でレ軍に逆襲の力はなかった。

 疑問はレ軍のジョン・マクナマラ監督が延長10回もバックナー氏を守備に就けさせたこと。脚に故障を持つ氏は、試合後半は守備要員と交代が決まりだった。「優勝の瞬間をグラウンド上で」と監督が考えた温情が生んだ世紀のエラーか、と今でも思うのだが…。 (野次馬)

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