球拾い―大リーグのこぼれ話伝えます―

“速球競争はしない”105マイル左腕チャプマンの英断

[ 2019年5月19日 05:30 ]

 ヤンキースのクローザー、アロルディス・チャプマン(31)は史上最高の速球投手だ。大リーグ機構(MLB)が光学機器やレーダーで種々のデータを集める「スタットキャスト」を全球場に設置したのが15年。その年、スタットキャストが記録した速球ベスト50はすべてチャプマンの投球だった。以後、16年のベスト50も独占し、ようやく17年にバスケス(パイレーツ)が3球、ケリー(ドジャース)が2球。いずれも24位以下だがベスト50位に入りチャプマンの3年連続独占を阻んだ。史上最速の一球は16年、チャプマンが投げた105.1マイル(約169.1キロ)と定まった。

 様相が一変したのは昨季だ。カージナルスのルーキー、ジョーダン・ヒックス(22)が105.1マイルの歴代最速に並び39球がベスト50入り、チャプマンは9球と惨敗した。メディアは今季の「106マイル(約170.6キロ)の先陣争い」に注目した。

 チャプマンは冷静だった。「もう若くない。フォーシームだけで押さず、スライダーを増やす」という。これまでチャプマンが記録した速球ベスト50の球種はすべてフォーシームだ。「スライダーでやっていける自信がある」とは、速球競争はしないというに等しい。「年齢と投球術獲得による自然な選択」とヤ軍のラリー・ロスチャイルド投手コーチはいう。

 18日現在、今季の速球ベスト50にチャプマンの投球は一球もない。32位までヒックスのシンカーが独占する。チャプマンの左手首には炎に囲まれたボールと105.1のタトゥーが。最速のあの一球を投げた時、「これが我がベスト」の確信があったのだろう。(野次馬)

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