【内田雅也の追球】生きていた「超積極的」「全員野球」 劇的勝利の阪神が貫きたい「初心」

[ 2021年9月5日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4-3巨人 ( 2021年9月4日    甲子園 )

<神・巨(17)> 8回2死一塁、ウィーラーの打球を好捕する佐藤輝 (撮影・平嶋 理子)      
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 最後は大山悠輔が持ち味とする積極性が劇的な結末を呼んだ。1点を追う9回裏無死一塁での逆転サヨナラ2ラン。左翼席に大きな放物線をかけて運んだ。美しいアーチだった。

 巨人チアゴ・ビエイラの1ボールからの内角速球だった。初球(第1ストライク)から強振がスタイルである。だが、この夜は前3打席で5球もストライク見逃しがあった。狙い球を絞っていたのかもしれないが、持ち味が消えていた。

 打撃不振で4番から降格となり、周囲の批判の声も高まっていた。苦悩のなか、前夜は7番で同点打など3安打。この夜は6番で劇的弾。折れそうな心を奮い立たせ、再び見せた積極打法に心から拍手を送りたい。

 主将の大山が見せた、この積極性こそ今の阪神が目指す姿勢である。勝利監督インタビューで矢野燿大は何度も「全員で」「僕たちの野球」と繰り返した。その野球とは就任時に掲げていた「超積極的」に他ならない。

 実は、この夜の序盤、その積極性が薄らいでいるのではないかと不安視していた。

 1回裏1死から安打で、3回裏先頭は死球で出塁した中野拓夢が1度もスタートを切らなかったからだ。後続打者5人が凡退する計23球の間、一塁くぎ付けだった。

 中野はリーグ最多の22盗塁。チームもリーグダントツの91盗塁を記録している。矢野の失敗を恐れない「超積極的」な姿勢の象徴だった。一方で巨人に4回表、二盗から先取点を奪われていた。

 今の阪神の選手たちには優勝の経験がない。首脳陣にも首脳陣として優勝の経験はない。9月を迎え、重圧や緊張から硬くなる。そうして、消極的になっているのでは、との不安があった。

 それは、どうも取り越し苦労だったようだ。たとえば、8回表、佐藤輝明はゼラス・ウィーラーの邪飛を追ってフェンスに激突、場内から拍手がわき上がった。直後に難しい右翼線ライナー性飛球を好捕した。その裏先頭、代打・小野寺暖は内角球に向かっていき、死球をもぎ取った。

 9回裏は先頭、糸原健斗は5本ファウルの8球目を左前打した。すぐに――まだ、代走を告げられる前に――植田海がベンチを飛び出した光景に全員で立ち向かう姿勢があらわれていた。

 若手も含め、全員の気迫や不屈の姿勢が見えた。全員野球も超積極的も生きていたのである。

 今後、ますますしびれる試合が続く。経験のない阪神はだからこそ、初心を忘れないでいたい。 =敬称略= (編集委員)

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