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【コラム】海外通信員

失望再び...「再建し直す」アルゼンチン ペケルマン再就任はあるのか

[ 2018年7月18日 22:00 ]

アルゼンチンサッカー協会のタピア会長がサンパオリ監督の後任に希望するペケルマン氏(現コロンビア代表監督)
Photo By ゲッティ イメージズ

 先月のコラムでは、クロアチアに負けて決勝トーナメント進出が危うくなり、メディアやファンから酷評されたアルゼンチン代表について取り上げ、「4年に一度のサッカーの祭典が人々の怒りに打ちのめされる結果になるのは実に嘆かわしく残念なこと」という一文で締めくくった。

 結果的にアルゼンチンは決勝トーナメントに進出できたものの、1回戦でフランス相手に個の力だけで3ゴールをマークしておきながら4失点を許して敗退。その後、私が気にしていた「人々の怒り」の雨はアルゼンチン代表選手を含む関係者全員に降り注いだものの、最も集中砲火を浴びたのはホルヘ・サンパオリ監督だった。

 サンパオリは結局、代表チームの選手たちのバックアップを得ることもなく、アルゼンチン国民からは失望され、就任当時のサポートを一気に失った状態で退任することが決まった。監督としての能力をあれほど期待され、リオネル・メッシをはじめとする主力選手たちも当初は喜んで迎え入れた監督だったが、アルゼンチン代表を任されてからは納得の行くゲームプランを一度も打ち出したことがなく、毎試合メンバーやフォーメーションを変え、観る者はもちろん実際にプレーする選手たちをも混乱に陥れる一方で、W杯が始まっても「迷い」は続くばかり。ナイジェリア戦では試合中、ベンチに歩み寄ったメッシにセルヒオ・アグエロを投入するべきかどうかを相談するサンパオリの姿がテレビ画面に映し出されて話題になったが、これはサンパオリの「アルゼンチン代表監督としてのアイデアと統率力の欠如」が明らかになった決定的な瞬間だった。

 ロシアから帰国後、サンパオリは新たな代表強化プロジェクトを文書にまとめ、AFA(アルゼンチンサッカー協会)のクラウディオ・タピア会長に提出している。「60+6」と題されたその文書には、アルゼンチン国籍を擁する代表クラスのフィールドプレーヤー60人とゴールキーパー6人の名前がリストアップされ、それらの人材を試しながらどのようにしてチームを築くかという具体的なプロジェクトの詳細が記されていたという。

 その中に、これまでアシスタントコーチを務めてきたセバスティアン・ベカセッセとニコラス・ディエスの名前はなかった。ベカセッセとディエスはすでにAFAと合意のうえで代表チームのスタッフから退任することが決まっていたのだ。スタッフが辞めることになっても自分だけ残留することを熱望し、自分の力では何もできないまま無力に終わった1年間を無視するかのように辞任を頑なに拒み、最後には弁護士を呼び寄せ、赤字のAFAから可能な限りの違約金をとることにこだわったサンパオリの退任を惜しむメッセージは、代表選手の誰からも送られなかった。

 スポーツ紙オレの代表番記者、エルナン・クラウスが得た情報によると、タピア会長はサンパオリの後任としてホセ・ペケルマンを希望しているという。かつてアルゼンチンでユース代表のベースを築きあげた実績を持ち、コロンビア代表監督として同チームをW杯に2大会連続して出場させたペケルマンに、監督又はマネージャーとしてもう一度アルゼンチン代表の基盤の再建を任せたいと考えているらしい。

 コロンビア代表監督としてのペケルマンの契約は8月末をもって満了となるため、タイミング的には申し分ない。また、ユース代表での教え子だったパブロ・アイマールとディエゴ・プラセンテがすでにアルゼンチンU−15及びU−17代表監督として指導にあたっていることや、先のW杯では同じくユース代表で指導したエステバン・カンビアッソをコロンビア代表スタッフに従えていたことなどから、いわゆる「ペケルマン・ボーイズ」を指導者として育成しながらユースを含む代表チーム全体の強化をホセに任せるというアイデアは興味深いし、楽しみでもある。

 だが、仮にペケルマンが興味を示して引き受けたとしても、成果主義ではなく結果主義のアルゼンチンにおいて、10年以上の年月を必要とするプロジェクトが果たしてうまく行くのだろうか。政治的な派閥が存在するAFAにおいて、この先会長が交代することになっても監督の立場は守られるのだろうか。

 サンパオリの就任とともに始まったはずの再建をさらに「再建し直す」こととなった今、AFAには代表チーム指導陣の人事だけでなく、今後の方針を今一度しっかり定めてもらいたいと切に願う。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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