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【コラム】海外通信員

【アルゼンチンコラム】大混戦の予感?W杯南米予選

[ 2024年9月19日 16:00 ]

コロンビア代表ネストル・ロレンソ監督
Photo By スポニチ

 当初、私は今回のコラムで「アルゼンチン代表の強さ」について書くつもりだった。一昨年のW杯優勝に続いて今年6月から7月にかけて開催されたコパ・アメリカ(以下コパ)も制覇し、その戦力層の分厚さと貫禄を示したアルゼンチン代表は、9月5日と10日に行われたW杯予選でも王者の肩書きに相応しく、順当に勝ち点を加算するだろうと踏んでいたのだ。

 負傷から回復中だったリオネル・メッシと、先のコパを限りに引退したアンヘル・ディ・マリアが不在でも、「負けはしないだろう」という安心感を抱いていたのは私だけではないと思う。世界制覇に続いてコパ連覇まで達成した今、リオネル・エスカローニ監督のチームはアルゼンチンで絶大な人気を誇っており、代表戦の日はどのメディアも朝から一斉に「今日はカンペオン(チャンピオン)がプレーするぞ」と人々を鼓舞する。日ごとに経済及び社会問題が深刻化するこの国において、代表チームと選手たちは国民に希望と活力を与えるポジティブなエネルギーとなっており、その影響力は半端なものではない。およそ10ヶ月ぶりに行われたW杯予選を前に、不覚にも観る側として過信があったのは、そんな雰囲気に飲まれてしまったせいかもしれない。

 ところがエスカローニ監督のチームは、第7節チリ戦で結果的に3-0の勝利をおさめたものの、前半は中盤の動きを相手に抑制され、第8節のコロンビア戦では苦戦を強いられ1-2と惜敗。内容的に「アルゼンチン代表の強さ」を取り上げるには全く相応しくなく、一方で他のチームが高く評価され、毎回スリリングな展開を見せる南米予選が相変わらず厳しい戦いであることを改めて確認する機会となった。

 今月の予選で脚光を浴びたチームはいくつかあったが、その筆頭はやはり、王者アルゼンチンをホームで倒し、今回の予選で唯一無敗を維持するコロンビア代表。監督を務めるのは、過去18年間にわたって知将ホセ・ペケルマンのアシスタントとして代表チーム指導のノウハウを習得したアルゼンチン人、ネストル・ロレンソだ。

 2012年から2018年まで師匠ペケルマンの元でコロンビア代表の指揮に携わったロレンソが、監督として同チームに戻って来たのが2022年6月。再建に向けて、かつて主軸を担ったハメス・ロドリゲスのレベルを今一度代表クラスに戻すことが重要と考えたロレンソ監督は、同じく“ペケルマン・グループ”の一員だった心理カウンセラー、マルセロ・ロッフェをハメスの元に送り込んでモチベーションを高めることに成功。「自分にとって父のような存在」であるペケルマンの思想を継承する馴染みのスタッフのケアとサポートによって以前の輝きを取り戻したハメスは好調の鍵を握る存在となっており、コパでも準優勝の立役者となったばかりだ。

 そのコパの後で新監督を迎えたエクアドル代表とパラグアイ代表も、9月の予選では早速手応えを感じさせた。アルゼンチン人のセバスティアン・ベカセッセを新監督に抜擢したエクアドル代表は、第7節でブラジルに惜敗を喫するも続く第8節でペルー相手に勝利をおさめて4位に浮上。W杯2大会連続出場実現を目指す中、以前ホルヘ・サンパオリのアシスタントとしてチリ代表を南米チャンピオンの座に導いた実績を持つベカセッセ監督の手腕に期待が高まっている。

 一方パラグアイが選んだのは、カタール大会でエクアドル代表を8年ぶりにW杯に導いたアルゼンチン人指導者、グスタボ・アルファロ。コスタリカ代表監督の座を辞任してパラグアイ代表にやって来たアルファロ監督のもと、コパでは3戦全敗によるGS敗退という屈辱的な戦績に終わったチームは、第7節でマルセロ・ビエルサ監督のウルグアイ代表を封じて無得点ドローに持ち込み、第8節ではブラジル代表を1-0で破る大金星を上げて話題を呼んだ。

 歴代得点王マルセロ・モレノ・マルティンスが引退し、コパでは3試合全敗、得点1、失点10と惨憺たる結果に終わったボリビア代表でも監督の交代劇があったが、南米10ヵ国のうち7ヵ国がアルゼンチン人監督に代表を託す中、FBF(ボリビアサッカー連盟)が選んだのは自国出身者。「A代表強化につながる育成部門の基盤作り」を目標に掲げたFBFは、育成世代専門の指導者オスカル・ビジェガスを代表監督に任命するという大胆な改革に乗り出した。ホームの会場を海抜3600mのラ・パスから4100mのエル・アルトに変更して行われた第7節のベネズエラ戦でいきなり4-0と圧勝し、他国のメディアからは「ホームの利を活かした結果」と白い目で見られるも、続くチリ戦ではアウェーに乗り込んで2-1の勝利。ボリビア代表がW杯予選のアウェー戦で勝つのは実に31年ぶりの快挙とあって、ほぼ無名だったビジェガス監督の注目度は急上昇している。

 上位6位までがダイレクトに通過、7位のチームが大陸間プレーオフ出場権を獲得する今回のW杯予選。南米諸国の出場枠が1つ増えたことによって競争性の低下が懸念されていたが、ブラジル代表の低迷や、これまたアルゼンチン人のフェルナンド・バティスタ監督の手で旋風を巻き起こすベネズエラ代表の手強さもあり、現時点ではむしろ以前より激戦化する気配を感じさせる。10月の第9節と第10節ではメッシが復帰すると言われているが、果たして「アルゼンチン代表の強さ」について語ることのできる展開になるだろうか――。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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