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【コラム】金子達仁

W杯の根幹揺るがしかねない米のFIFA介入

[ 2026年5月8日 13:00 ]

サッカーイラン代表
Photo By AP

 中国ではイランのことを“伊朗”と表記する。初めて知った時は、妙に納得してしまった。朗らかなイタリア。なるほど、言われてみればこの両国、似ていないこともない。国旗の色はどちらも緑、白、赤の3色。人懐っこいタイプが多いし、料理も日本人の口に合うものが結構ある。イタリア人になりすましたイラン人が事件を起こしたこともあった。

 とはいえ、先週の22日に英国フィナンシャル・タイムズが報じたニュースには、イランとイタリア、双方の国民が唖然(あぜん)としたのではないか。米国大統領特使のパオロ・ザンポッリ氏が、イランの代わりにイタリアをW杯に出場させるよう、国際サッカー連盟(FIFA)に要請したというのだ。

 名前からも推察できるように、ザンポッリ氏はイタリア出身。過熱した愛国心ゆえか、はたまた米国内に1780万人いるとされるイタリア系移民の票を敬愛するボスのためにまとめようとしたのか、いずれにせよ、前代未聞の提案だったことは間違いない。

 ザンポッリ氏に誤算があったとすれば、助け舟を出したつもりの祖国から反発を受けたことだろう。「第一にそれは不可能。第二にいい案でもない」「恥ずべき考えだ」という声がイタリア側から上がったことで、話は立ち消えになった。

 イタリア人の矜持(きょうじ)が、イランとW杯を救った。

 考えてみていただきたい。もしイタリア側が、ザンポッリ氏の提案を受け入れていたら。恥でもなんでもいいからW杯に出たい、と考えるところまで追い詰められていたら――イランはW杯から排除されていた。たった一国、ただし政治的にも経済的にも強大な力を持つ国の思惑によって、勝ち取った正当な権利を奪われるところだった。W杯は、大国が望めば自在にルールが変更できる大会だというレッテルが貼られてしまうところだった。

 今回の騒動が将来に禍根を残さないために、ザンポッリ氏の発言を誰よりも強く非難すべきはFIFAのはずだった。だが、わたしの知る限り彼らは憤慨したそぶりすら見せず、W杯の根幹を揺るがしかねない介入に知らぬが仏を決め込んだ。

 なぜFIFAは米国の暴論を黙殺したのか。暴論の主が米国だったから、なのか。世界のサッカー界にどんな貢献をしたのかまったくわからない人物に平和賞なるものを貢いだ組織としては、“トラ”の威を借る側近を批判してご機嫌を損ねるのが怖かったのか。理由はどうであれ、FIFAという組織が、大国からの介入に激烈な拒否反応を示す組織ではない、という前提はつくられた。

 今回の騒動において、実現すれば著しく不利益を被ることになるイランを守ろうとする動きを、彼らはまったく見せなかった。

 介入は、タブーではなくなった――介入する側が、政治的、経済的に強大であるならば。

 かつて、米国、日本、欧州の3地域の企業によってW杯は支えられてきた。日本企業が姿を消した現在、FIFAにとって最大のお得意さまは、米国と、中国である。

 もし、この世界のどこかに、世界屈指の経済大国で、しかし、イタリアほどにはプライドが高くない、むしろ実利を重んじる国があったとする。もう20年以上、本大会出場から遠ざかっているとする。そんな国が、たとえば日本をW杯から排除して自分たちを出場させるべきだと騒ぎだしたら――。

 わかっていることは一つ、FIFAは守ってくれないということである。(金子達仁=スポーツライター)

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