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フェルナンド・トーレス2度目の退団 アトレティコとの絆は永遠

今季をもってアトレティコ・マドリードを退団するフェルナンド・トーレス
Photo By AP

 ワン・クラブ・マン。一クラブだけでキャリアを過ごす選手のことを指し、現代フットボールではその存在が確認しづらくなった絶滅危惧種として扱われる。フェルナンド・トーレスは、その種の選手になれなかった一人だ。しかし彼以上に一クラブを想い、そして一クラブのファンから愛される選手も、そういないのではないか。

 4月9日、トーレスは企業のトークイベントで、今季限りでアトレティコ・マドリードから退団することを発表した。キャリア2回目のアトレティコ退団発表である。「今季がこのクラブで過ごす最後のシーズンとなる。簡単な決断ではなかった」。この言葉に、多くのアトレティコファンが悲嘆に暮れた。私の可愛いエル・ニーニョ(トーレスの愛称、子供、少年の意)が、またこの家から出て行ってしまうのだ、と。

 アトレティコファンがトーレスに注ぐ愛情は、特別だ。いや、トーレスがアトレティコに注ぐ愛情が特別で、そのために特別な愛情が注がれているのかもしれない。……いずれにしても、ファンとエル・ニーニョは両想いで、彼らは完璧なる愛を現実のものとしている。

 トーレスは、12歳でアトレティコの下部組織に加入。だが彼がアトレティコのファンになったのはそれよりも前で、祖父エウラリオの影響によってロヒブランコの血をその体内に流していた。

 「学校では、ほぼすべてのクラスメートがレアル・マドリードのファンだった。僕は納得がいかず、いつも祖父の下へ駆け寄ったよ。祖父は簡単な言葉を使い、アトレティコのことを語ってくれた」

 「彼の話は選手たちのことじゃなかった。マドリードの紋章である熊がエンブレムに入っていることなど、アトレティコが僕たちマドリード市民にとって、どのような存在かを真剣に教えてくれたんだ。心に染み入ったのは、この100年の歴史を持つ組織を支えてきたメンタリティーだね。懸命な努力、献身の姿勢、レアル・マドリードという存在に押しつぶされない忍耐力、彼らとは違う形で巨大な存在となることを目指す野心……」

 「祖父から何度も言って聞かされたのは、努力を怠らず、決してあきらめることなく戦い続けることだった。誰かの助けなど必要とせず、強大な権力に立ち向かうチームこそがアトレティコ。だから祖父、そして僕は、永遠にこのクラブの人間であり続けるんだ」

 トーレスは17歳で、アトレティコのトップチームデビューを果たす。チームは史上初の1部からの降格を経験し、2部の地獄を味わっていたときだった。トーレスはトップチームでもすぐに頭角を現し、アトレティコファンにとって希望の光となった。17歳にしてチームの先頭に立ち、クラブの旗を掲げていたのである。

 そうして、2シーズンをかけて1部復帰を果たしたアトレティコで、トーレスはキャプテンマークを巻きながら、不動のエースストライカーとして奮闘した。だがアトレティコはお得意の乱調を繰り返して、うまく軌道に乗ることができず。借金を重ねるだけ重ね、2007年にトーレスをリヴァプールに売却することを決断した。

 「自分の家はアトレティコだけ。そこから去ったならば、タイトル獲得を目指していかなくてはならない。そう考えて挑戦していくべきなんだ」。そう腹を括ったトーレスは選手として成長を果たし、スペイン代表ではEURO2008、南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012優勝を達成。そして2011年に加わったチェルシーではFAカップ、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグを勝ち取った。しかしこの間にも、トーレスがアトレティコに向けた愛情は一切損なわれることがなかった。スペイン代表の優勝パレードで、トーレスが誇示していたのはアトレティコのエンブレムだったのだ。

 トーレスは2014−15シーズンの冬の移籍市場で、ついにアトレティコ復帰を果たす。再入団のセレモニーは、圧巻だった。アトレティコの当時の本拠地ビセンテ・カルデロンには、4万5000人ものファンが押しかけ、帰還した我が子を出迎えた。アトレティコの下部組織から上がってきた選手にとっても、トーレスの帰還は特別だった。コケは「彼が戻ってきた最初の日は、本当に緊張した。トーレスがロッカールームに入ってくるなんて」と振り返る。

 ついにアトレティコ復帰を果たしたトーレス。だがしかし、アトレティコのトップチームで最初にプレーしていた頃には、自分の成長にクラブが追いつかなかったが、今度は逆にクラブの成長に自分が追いつけなかった。アトレティコを復活させたばかりか、史上最高の黄金期をもたらしたディエゴ・シメオネ率いるチームで、与えられる役割はほとんどがスーパーサブ。それでも、1シーズンにつき10ゴール前後を記録していたが、今季に入って一気に出場機会を失った。そうしてトーレスは、選手として見切りをつけるに至った。「ここで引退したかったが、プレーせずにスパイクを脱ぐという形じゃない」。そう話して、もう一度我が家を後にすることを決めた。

 だが2017−18シーズンはまだ終わっていない。あらゆるタイトルを獲得してきたトーレスだが、アトレティコではリーガ2部優勝を経験したのみ。現在、準決勝まで進出しているヨーロッパリーグで優勝を果たし、トロフィーを空高く掲げれば、最高のフィナーレとなるだろう。

 しかし、結末がどんなものであろうとも、アトレティコとトーレスの絆は永遠だ。ファンはトーレスを自分たちそのものと感じ、トーレスも彼らの一員という自覚がある。トーレスは退団を発表した直後に『ツイッター』を更新して、ファンにメッセージを送った。祖父エウラリオに手を引かれ、スタジアムでアトレティコを応援していた日々を、まもなく取り戻すことを約束している。

 「もうすぐ皆のそばに、すべてが始まった場所である僕の席に戻るよ。僕のアトレティを見守り、試合に勝つために応援していきたい……まあ、結果なんてそこまで大切ではないけどね」

 アトレティコの生ける伝説は、確かに家を空けたことがあるし、この夏にもう一度旅に出る。しかし、それでも彼はワン・クラブ・マンなのだろう。(江間慎一郎=マドリード通信員)

[ 2018年4月14日 15:00 ]

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