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【コラム】海外通信員

メッシとマラドーナの関係

[ 2017年7月9日 06:00 ]

ポーズを決めるメッシと婚約者アントネラ・ロクッソさん
Photo By AP

 去る6月30日、故郷ロサリオ市で幼馴染のパートナー、アントネーラ・ロクッソと結婚式を挙げたリオネル・メッシ。親族や地元の友人たち他、バルセロナやアルゼンチン代表チームの仲間たちが260人招待され、賑やかな祝福ムードの中、素晴らしい式となったことについては各国のメディアが取り上げ、サッカー界の喜ばしい話題として世界中に伝わった。

 この「メッシ結婚」に関する一連のニュースの中で、私がひとつ気になったことがある。式を間近に控えていた頃、スペインのメディアが「ディエゴ・マラドーナも招待されている」と報じていたことだ。実際のところ、メッシはマラドーナを招待しなかったし、する予定もなかった。メッシとマラドーナの関係を知っていれば、「それはないだろう」とすぐにわかることだ。

 メッシとマラドーナの関係について、よく「不仲」という表現を見かけることがあるが、これは厳密に言えば的確な言葉ではない。「親密」ではないことは確かだが、だからといって即「不仲」と断定するほどでもない、というのが正しい。

 メッシにとって、マラドーナがアルゼンチンサッカー界における偉大な先輩であり、一時は代表チームで監督として指導を受けた人であることは間違いないが、決して「個人的に親しい友達」ではない。メッシはその性格上、広く浅い交友関係よりも狭く深い付き合いを好む。今回の結婚式には新郎新婦と普段からごく親しい付き合いをしている「家族と友人」だけが招待されており、そこにマラドーナが入っているほうが不自然なのだ。

 今回の結婚式の招待客が260人だったことからも、メッシとアントネーラがいかに「より親密な関係にある人たち」を厳選したかがよくわかる。アルゼンチンでは富豪層になると結婚式に400人から500人もの招待客を呼ぶことが珍しくなく、招待される人々のリストには親の仕事関係者や地元の政治家、著名人まで名を連ねる。マラドーナも89年11月に長年連れ添ったクラウディアと結婚式を挙げた時は1200人ものゲストを招待し、その中には当時のアルゼンチンサッカー協会会長フリオ・グロンドーナ、代表監督のカルロス・ビラルド、イタリアサッカー連盟の会長だったシルビオ・ベルルスコーニや、アルゼンチンの有名な芸能人たちが大勢含まれていた。大規模で派手な式を挙げたマラドーナとは異なり、メッシはあくまでも「気心知れた信頼できる人たち」と祝福したかったのだろう。

 メッシの結婚式に参列した幼馴染の友人ディエゴ・バジェホスは、式に着ていくスーツもなく、レンタルで調達したという。そして彼を含む昔からの友人たちは、メッシが結婚祝いのプレゼントの代わりにアルゼンチンのNGOへの寄付を募ったことについても驚かなかった。多額の報酬を受け取るスターになってから常に慈善運動に積極的に参加してきたメッシの姿は、昔から彼のことを知る仲間たちにとっては至極当然なのである。

 結婚祝いの贈り物に高額な置物や陶器のセットなどをリクエストし(アルゼンチンでは新郎新婦が欲しいものとその値段をリストアップして参列者がその中からどれにいくら贈るかを選べる風習がある)、各界の有名人を可能な限り呼び寄せて大規模で立派な式を挙げたマラドーナにとって、メッシが結婚式に自分を呼んでくれなかったことは理解できなかったようで、「招待状はどこかで紛失してしまったようだね」というジョークからはさみしさが感じられる。でもそこで苦情を述べるのではなく、「メッシに対する自分の思いは変わらない。彼はとてもいい人で、素晴らしいスポーツ選手だ」と褒め称えたところは、やはり嘘をつけないマラドーナらしかった。

 共にアルゼンチンで生まれ、世界を代表するスター選手となった二人だが、比較するにはあまりにも異なる。今回の結婚式に関する一連の出来事からも、改めてわかった。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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