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【コラム】海外通信員

フランス代表にも招集 魔法は続くか!?
マンCをCL敗退に追い込む シンデレラになったブラックモンスター

[ 2017年3月24日 06:00 ]

欧州CL決勝トーナメント1回戦第2戦でチーム3点目を決めたモナコMFバカヨコ
Photo By スポニチ

 モナコにはときどき、神の恩寵が降りかかる。

 13年前がそうだった。監督はディディエ・デシャン。ピッチ上にはモリエンテス、リュドヴィック・ジュリ、ジェローム・ロテン、パトリック・エヴラらが躍動し、チャンピオンズリーグ(CL)決勝に進出する快進撃を演じた。ジダンを擁するレアルまで破ったのだから半端じゃなかった。

 恐れを知らぬ若さ、煌めく攻撃、信じられないようなゴール。名物広報ピエール・ジョー(ピエール=ジョゼフ・ガドー)が、「まるで神に守られているみたいなんだよ」と微笑んでいたのを思い出す。彼だけではない。みながそう感じていた。

 当時モナコの大ファンだった私も、ジュリのちょっと短い足が魔法にでもかかったみたいにゴール前で長く伸び、爪先がボールに届いて、ついに得点になった瞬間、思わず飛び上がってワインをパソコン上にこぼしてしまったものだった。ちなみにパソコンは1週間使えなくなった。

 今年がそんな恩寵の年になるのかどうかは、まだまだサスペンスだ。だが3月16日、ちらりと神の恩寵らしきものを垣間見た人は多いと思う。

 CLラウンド16で、あのグアルディオラ率いるマンチェスター・シティを大逆転の末に敗退に追い込み、準々決勝進出を決めたからである。敵地でのファーストレグを5−3という大量スコアで落としたにもかかわらず、セカンドレグを3−1で制し、見事ヨーロッパ8強入りを果たしたのだ。

 その大逆転ゴールを決めたのが、ティエムエ・バカヨコ(22歳)だった。

 マンCに押されてじりじり下がり、8強はやはり夢か…と誰もが思ったその瞬間、トマ・レマールのFKに1メートル85、77キロのバカヨコが猛獣のごとく飛びつき、チョコレートパンに白いパウダーシュガーをまぶしたような頭(この日のヘアスタイル)で、豪快に突き刺したのだ。

 バカヨコがヒーローになった瞬間だった。

 しかもストーリーは終わらなかった。2日後の3月18日、バカヨコはデシャン代表監督に見染められ、フランスA代表に初招集されたのである。今度はシンデレラになった印象だった。

 ポール・ポグバが負傷離脱したための緊急招集だったが、実はここにはもっと深い意味もある。バカヨコはコートジボワール代表からも待たれていたからである。

 バカヨコはパリ14区に生まれ、レンヌで育成されたフランス人。U−21フランス代表でもすでに13試合を戦ってきた。ただ両親のルーツからコートジボワール国籍も持つ。このためA代表では、フランスかコートジボワールのどちらかを選ぶ権利があり、コートジボワールではヤヤ・トゥレの後継者とまで期待されてきた。

 一方フランスでも期待の声が高まっていた。とはいえフランス代表中盤の競争は熾烈。かつてのドログバのように、フランスに呼ばれないままコートジボワールに去ってしまうのか、と注目が集まり始めていたところだった。

 そんななか、バカヨコはこう言っていた。

 「レ・ブルーでプレーできるチャンスなんて、誰にでもあるわけじゃない」「二つの国を愛することは可能だし、僕の場合、それが僕の歴史なんだよ」

 そこに今回の招集状が舞い降りたのである。

 バカヨコの活躍ぶりは、数字にもはっきり表れている。

 3月18日(第30節直前)時点だが、今シーズンのL1における“1試合平均ボール奪取数”という指標では、チームトップがバカヨコ(7.9)。“1試合平均デュエル(競り合い)勝利数”という指標でも、やはりチームトップ(7.9)。“1試合平均インターセプト数”でもトップだ(2)。パス成功率は88%にのぼっている。

 このバカヨコと相棒ファビーニョで構成する中盤が、高い位置でプレッシングをかけて敵を圧倒、素早いポジティブトランジッションで前線にリレーする。ヨーロッパ屈指の破壊力(3月20日時点、L1だけで87ゴール)はここから生まれているのだ。

 マルセイユ(OM)の中盤を担うザンボ・アンギサは、モナコとの対戦後に「バカヨコとファビーニョの中盤は、ふ〜〜〜」と溜息をついたものだった。圧殺されてしまったからである。そのOMはリーグ戦・カップ戦の計3試合とも、大量失点で敗北に終わった。

 3月19日(第30節、カン戦)には少し休ませてもらったバカヨコだが、途中投入されると、向かってくる敵をこともなげにドスドス潰して前線に上がり、実況アナは思わず「モンストル!」(モンスター)と叫んでいた。3−0の圧勝だった。

 このブラックモンスター、果たしてレ・ブルーにデビューを飾れるだろうか。

 3月25日のルクセンブルク戦(W杯予選)か3月28日のスペイン戦(親善)のどちらかに出場すれば、晴れてフランス代表キャリアスタートとなる。だがプレーできなかった場合は、理論的にはまだ、コートジボワール代表に行く可能性も残ることになる。

 デシャン代表監督は20日、「けっして他国の邪魔をする目的で招集したわけではない。あくまでもバカ(愛称)の自由だ」と語り、本人にチャンスをつかむ自由を与えた。

 午前0時のシンデレラのように、28日で魔法が解けてしまうか。それとも魔法が解けても何かを残し、フランス代表に定着するのか。

 バカヨコは少年時代、INFクレールフォンテーヌ(エリートだけが入れる連盟の前育成センター)に挑戦したが合格できず、大きく落胆した経験をもつ。だがそのクレールフォンテーヌに、バカヨコはついに3月20日正午、他の4人のモナコ若武者と一緒に乗り込んだ!

 今度こそはクレールフォンテーヌの森の鳥たちが、バカヨコに魔法をかけ続けてくれると信じたい。(結城麻里=パリ通信員)

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