剛腕・藤井王将に緩急自在・羽生九段が挑む 野球通の谷川17世名人が究極の“投げ合い”を展望 

[ 2023年1月8日 05:11 ]

王将戦7番勝負を読む 谷川浩司17世名人EYE

王将戦第1局の対局室検分に臨む藤井王将(右)と羽生九段(撮影・河野 光希)
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 8日に静岡県掛川市で第1局が開幕する第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負。王将4期の谷川浩司17世名人(60)が前期に続いてシリーズを展望した。初防衛に挑む藤井聡太王将(20)と、タイトル通算100期を目指す挑戦者・羽生善治九段(52)によるタイトル戦初対決。「藤井有利」としながらも「羽生さんは何をしてくるか分からない」とその変化球に注目した。

 熱烈な阪神ファンで知られる谷川は20年度竜王戦以来、2年ぶりにタイトル戦に出場する羽生を投手にたとえた。球速160キロで変化球も一級品の藤井に対し、羽生も「20~30代はそう。相手が直球狙いと分かっていても直球を投げ込んで、真っ向勝負を楽しんでいる雰囲気があった」とし、52歳になっても「150キロは出る。多彩な変化球も健在」と評価する。

 ではタイトル戦初出場から負けなし、11連覇の藤井にどう立ち向かうのか。

 若手が先行するAI研究を追うだけでは、積み重ねた経験値が生きないし充実感に欠ける。AIが示す評価値から自由な将棋を指したい。一方で、最先端の将棋でも引けを取らないと証明したい。2つの願望の狭間で、「羽生さんがどちらを選択するのか注目しています」と分析した。

 谷川は羽生戦が62勝106敗。中原誠16世名人(75)と故米長邦雄永世棋聖が重ねた187局に次ぐ歴代2位の対局数を誇る、羽生を最も知る棋士。居飛車の主力戦法、角換わりや相掛かりだけではなく、「変化球の一つとして、後手番の横歩取りは考えられる」と指摘する。

 羽生が子供の頃から愛用する得意戦法で、藤井との過去8局中、唯一勝利した20年度王将リーグがその後手横歩取りだった。96年2月、羽生が当時の全7冠独占に成功した谷川との第45期王将戦第4局もそうだった。

 「羽生さんは本当に何をしてくるか分からない。事前研究が絞りにくい棋士です」

 言葉に実感がこもるのは、勝率3割台だった21年度からの復調を感じ取ることもある。

 その一端が出た、22年度王将リーグの永瀬拓矢王座戦。「最先端の角換わりで、羽生さんの終盤力が光った一局です」。永瀬先手で、羽生王の受けが難しいとみられた87手目▲5一飛成(A図)に△3二歩。受けの妙手が予想外だったのか、永瀬は48分考えて持ち時間を全て使い切る。

 ▲6二竜と金を取ったがさらに△2二歩と埋められ4手後、投了した。「△3二歩で(自王は詰まずに)残していると、永瀬さん相手に読み勝ちました」。全8冠を分け合う3強の一角を退け、挑戦権獲得へ前進した。

 7番勝負を展望すれば「藤井さん有利は間違いない」。同時に、「羽生さんなら…と思う棋士も多いはず。最先端以外の将棋も現れて、藤井さんの将棋の幅も広がるかもしれない」との側面も示す。2日制、持ち時間8時間の「棋は対話なり」から予測不能の相乗効果が期待できそうだ。(構成・筒崎 嘉一)

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