藤井王将「“深”く追求」羽生九段「語呂で“仁”」扇子に揮毫した文字の意図 “世紀の一戦”8日開幕

[ 2023年1月8日 05:10 ]

ポーズをとる藤井王将(右)と羽生九段(撮影・河野 光希)
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 将棋の第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負はきょう8日、静岡県掛川市の掛川城二の丸茶室で行われる第1局で開幕する。史上最年少5冠の藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む=に永世7冠資格を持つ羽生善治九段(52)が挑む、ファン垂ぜんの好カード。7日には両者が現地入りし、検分などを無事済ませた。夢の対決は午前9時にスタートする。

 午後2時過ぎ、相次いで掛川駅の改札を出る主役の2人に無数のスマホが向けられ、その一挙手一投足が追われた。中央図書館で開催中の「こども王将戦」視察時は会場入り口にファンが鈴なりとなり、退場する際にはロビーが大混雑。対局場検分に向かう関係者が一時足止めになるほどの混沌(こんとん)ぶりだ。

 真冬の冷気が吹き飛ぶような熱い歓迎の中、防衛を期す藤井王将は普段通りの表情を崩さない。「羽生九段が挑戦者に決まってから王将戦を意識してきた。注目していただけるシリーズになると思っている。期待に応えられるような将棋にしたいです」。紺色のネクタイにはウサギのデザインが躍る。「家族が選んでくれました。今年の干支(えと)ですから」と、さりげない細部も手抜きがない。王者としての余裕かもしれない。

 記念扇子には「深」と揮毫(きごう)した。その意図を「持ち時間8時間と長い対局になる。そういった中で自分なりに盤上を深く追究したいという意味です」と説明した。戦う相手は羽生だけではない。究極の目標である「真理の探究」もテーマに掲げるのが今回の番勝負。一手一手が「深」くなるのは自明の理でもある。
 7期ぶりの登場となる羽生は、藤井に負けずリラックスしたオーラを身にまとって対局室を検分した。「徐々に(7年前を)思い出しているところ。落ち着いた場所で対局に打ち込める素晴らしい場所ですね」と、感慨深く周囲を見渡す。こちらは記念扇子の揮毫に「仁」を選択。「藤井さんが深なので、語呂がいいかなと。ただ仁は好きな言葉ではあります。皆さんが喜んでいただければいいかなという気持ちで書きました」と語る口調は柔らかい。

 その顔つきにわずかな変化があったのは、対戦相手について問われた瞬間。「ずっと安定して結果を残され、特に最近はその強さを増している」と認めはした。なにしろ直接対決は羽生の1勝7敗。今シリーズも劣勢がささやかれる。「ただ棋譜で見ているのと実際に対局してみるのとは印象が変わることがある。明日以降、実際に対局して体感していきたい」。力強い口調は羽生なりのファイティングポーズだ。

 さあ夢対決の開始だ。サッカーW杯や野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に負けない興奮がここにある。歴史が書き換わる世紀の一戦を心して見守ろう。  

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