さいとう・たかをさんお別れの会 ちばてつやさん弔辞「見かけによらず優しいジェントルマンでした」

[ 2022年9月29日 14:19 ]

さいとう・たかをさんお別れの会で写真に納まる(左から)秋本治さん、ちばてつやさん、里中満智子さん(撮影・木村 揚輔)
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 「ゴルゴ13」などの数々の名作を残し、昨年9月24日にすい臓がんのため84歳で亡くなった漫画家さいとう・たかをさんの「お別れの会」が29日、東京都内のホテルで行われた。漫画家のちばてつやさん、里中満智子さん、秋本治さんが弔辞を述べた。

 【ちばてつやさん弔辞】

 たかをちゃんをしのんで。

 さいとうたかをさん、あなたの突然の訃報を聞いたのは昨年の9月の24日でしたから、一年経った今でも、まさか私が、あんなに元気だったさいとうさんを見送るとは思いもしませんでした。

 あなたは少し年上でしたけども普段は親しみを込めて「たかをちゃん」と呼ばせてもらっていました。代表作、ゴルゴ13も重なり、にこにこしていましたけど、普段はちょっと強面で気むずかしそうな印象の人だから、そのサングラス越しにぎょろっとにらみつけられると、たいていの人は足がすくんだと思いますよ。でもね、あなたは見かけによらずに、誰よりも周りを思いやる、とても優しくて思慮深いジェントルマンな人でした。

 たかおちゃんはゴルフが好きでね、お互いがなかなか時間が合わない中にも関わらず、わしら年取った漫画家とよく集まって、一緒にゴルフをやって遊びました。たかおちゃんの腕前は相当なものでね、お元気な頃は、はるか向こうを歩いている前の組に打ち込んで、しかられるくらい、ドライバーをよく飛ばしていたし、グリーンにのったら愛用していたクラシックなパターを自在に駆使してとんでもなく長いパットを、それこそあなたが描くスナイパーのように、冷静に沈めまくっていましたね。

 強面の風貌にも関わらず、キャディーさんや周りの女性にはとても優しく接する方、ずいぶんはじけていて、モテていましたね。仕事も遊びもすべてに大胆で、繊細なゴルゴ13とたかおちゃん、今の私にはふたりがまるで一心同体、記憶の中ではしっかりと重なって見えるのです。

 劇画を製作するときも、映画を作るような考え方をいち早く考案して、毎回、作品の最後のページにエンドロールを入れて、脚本、作家名、スタッフ、担当者の名前をすべて入れて、監督、演出、資料集めなど、役割分担を徹底し、それぞれの行程を尊重し、沢山の作品を生み出し続けてきた先駆者で、昔からとっても合理的で、進歩的な考え方を持っていました。そして、既に半世紀以上前から漫画は子供が読む物という時代だったのに、いずれ大人がコミックを楽しむ時代が来るということを予見して、成人誌、青年コミック誌の必要性を強く訴えていましたね。劇画という漫画の1ジャンルを創生し、日本の漫画の劇画文化をここまで大きく育んで来たのは、疑う余地なくあなたの功績。このような作家を失った、漫画界の喪失感は深く重く計りしれませんが、たかをちゃんが心から信頼して、制作を共にしてきたさいとうプロの優秀なスタッフさんたちが、さいとうたかをの世界を、今もう既に、そしてこれからもしっかりと引き継いでいてくれることと、どうかご安心ください。

 今頃は、生前大の仲良しだった石ノ森章太郎さん、藤子不二雄Aさん、古谷三敏さんたちと大好きなお酒でも酌み交わしていることでしょう。たくさんの美人たちに囲まれてね。うらやましい限りですよ。

 たかおちゃん、私もまもなくそっち行くので、待っとてね。

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