AI形勢判断が浮き彫りにした強さ「藤井曲線」徐々に有利に、中終盤の逆転許さず

[ 2021年11月14日 05:30 ]

第34期竜王戦7番勝負第4局   〇藤井聡太3冠ー豊島将之竜王● ( 2021年11月13日    山口県宇部市 )

藤井聡太3冠の王将戦挑戦者決定リーグ・豊島将之竜王戦の評価値グラフ
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 史上最年少で4つ目のタイトルを手にした藤井聡太4冠(19)。強さの背景にはAIによる形勢判断を数値化した「藤井曲線」があった。かつて7冠を史上初めて独占し、棋界の第一人者として君臨した羽生善治九段(51)の強さの象徴「羽生マジック」のようなストロングワードになりそうだ。

 デビューした2016年以降、毎年8割超の勝率を残し、今年度も40勝7敗で・851(13日現在)という驚くべきレベルを維持し続けている。その強さを表す物差しで注目されているのが「藤井曲線」だ。1局の将棋における「右肩上がり」のグラフ形状を指す。

 プロ入り当時は対戦相手が若手やベテラン中心だったが、今では対局相手もトップ棋士ぞろいで相手のレベルも格段に高くなった。にもかかわらず、AIによる形勢判断を数値化すると、序盤から少しずつ藤井有利に振れ、逆転を許さずに相手を投了へと導く。いつしか「藤井曲線」と呼ばれるようになった。

 グラフは囲碁将棋チャンネルによる形勢の振れ具合を示した一例。画面上ではこの評価値に基づき、パーセンテージで示す両者の形勢について0~200点有利が50~55%、200~500点は55~60%、500~1000点は60~75%などと表示される。この日、日本将棋連盟が運営する中継アプリの評価値は、藤井が中終盤で一時的に40%台前半まで下げることもあったが「藤井不利」までは至らなかった。

 「藤井さんは中終盤の逆転負けが一番少なく、優勢になれば最も勝ちきることのできる棋士です」。そう語るのはAI研究に詳しい名人挑戦経験者の稲葉陽八段(33)だ。

 稲葉は、藤井の最近の傾向として「終盤に時間を残すようになった。研究が進んだからか意識してなのか1分将棋が少なくなった」ことを挙げ、4冠制覇の原動力になったと分析。さらに「対局のたびに持ち時間を使い切って将棋への理解を深める。その積み重ねをずっとやられている」と指摘した。

 「強い人がより“強い人”に教わることができるようになった」とAI研究がもたらす効果を挙げるのは久保利明九段(46)。AIの出現前後で歴史を分けるなら、出現前のトップ棋士は教わる機会がなかった。自身より強い棋士がいなかったためで、研究用パソコンを自作できる藤井は若さもあり、強くなれる環境下にあるという考えだ。

 羽生の全盛期の代名詞「羽生マジック」。その言葉の存在だけで、未然に相手の闘争本能を刈り取る魔力があった。「藤井曲線」もその力を宿し始めている。

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