映画「SAYONARA AMERICA」 細野晴臣の偉業を知るドキュメンタリー

[ 2021年11月11日 08:30 ]

細野晴臣の米国でのライブの模様を追ったドキュメンタリー映画「SAYONARA AMERICA」(C)2021“HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS
Photo By 提供写真

 【牧 元一の孤人焦点】ミュージシャンの細野晴臣(74)のライブ・ドキュメンタリー映画「SAYONARA AMERICA」が12日から全国で順次公開される。

 細野は2019年に音楽活動50年を迎え、初めての米国でのソロライブをニューヨークとロサンゼルスで行った。映画はその模様を追ったもので、温かいまなざしで迎える現地の人々の前で、細野が日本のバンドメンバーとともに、「北京ダック」「Pom Pom蒸気」などを披露する姿が映し出される。

 細野は終戦後間もない1947年に東京で生まれ、米国で流行したブギウギなどを聞いて育った。映画には、ダグラス・マッカーサー連合国軍最高司令官が占領下の日本にやって来るニュース映像が盛りこまれている。当時の日本人は米国の多大な影響を受けた。細野の音楽の原点も米国。この映画は細野が米国から得たものを米国に返しに行った様子を捉えたドキュメンタリーだと感じる。

 ライブ会場を訪れた人々の声が熱い。「細野への愛と、偉大な良き時代の米国音楽への愛のために来た」「私の人生の中でいちばん米国を感じた」など。細野が作り出した音楽がそれほどまでに米国に浸透していたことを初めて知った。

 実はこの映画を見るまで、細野の音楽について深く考えてことがなかった。その存在をはっきりと認識したのは音楽グループ「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」(1978年~)だったが、当時は高橋幸宏、坂本龍一と一緒に演奏するメンバーという程度の理解しかなかった。ロックバンド「はっぴいえんど」(1969年~)や音楽ユニット「ティン・パン・アレー」(73年~)の頃は自分が幼すぎて記憶がない。

 しかし、振り返ってみれば、いかに自分が細野の音楽を楽しんで過ごしてきたかが分かる。YMOの曲はもちろんのこと、作曲家として曲を提供したイモ欽トリオ「ハイスクールララバイ」(81年)、松田聖子「天国のキッス」(83年)、中森明菜「禁区」(83年)など、ヒット曲の数々。特に、松田聖子「ガラスの林檎」(83年)の荘厳なメロディーが好きで、当時購入したアナログレコードを今でも大切にしている。細野が米国から吸収した音楽の恩恵を、およそ40年も前から受けとっていたのだ。

 この映画には、コロナ禍で活動を休止していた細野の最近の姿も映し出される。2年前の米国でのライブは、音楽活動50年の集大成の意味合いもあったようだが、さて、ここから先はどうするのか…。その答えは、もちろん、映画を見れば推測できる。暗くなりがちな時勢の中で、多彩な音楽を聴き、細野の味わい深いコメントを聴き、ひとときでも明るい気分になれる作品だ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2021年11月11日のニュース