【内田雅也の追球】サムライに学ぶ野球道…若虎は忘れられない経験をした

[ 2023年3月7日 08:00 ]

WBC強化試合   阪神1―8日本代表 ( 2023年3月6日    京セラD )

<神・侍>5回2死一、二塁、大谷に3点本塁打を浴びる富田(撮影・平嶋 理子)
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 阪神OBの江夏豊(野球評論家)は武士の世界を描いた時代小説を愛読する。勝負という点では野球の投手―打者も、剣をまみえる武士も同じ一対一である。武士道精神をみているのだろう。

 ただ江夏は「剣の道と野球の道では同じ体を使っても大きく違うところがある」と語る。藤沢周平を取り上げた番組を基にした日本放送協会(NHK)編『わたしの藤沢周平』(宝島社)にある。「野球は失敗から学べますが、剣の道は一つしかない命をかけて、その瞬間に判断するわけです。“この次”はない」

 野球道を極めようとしたサムライとして多くの失敗や敗戦から学んだ。「僕は目をつぶれば同じシーンが何回でも浮かびます。王さんのバットにボールがパッと乗ってピューと運ばれていく」。現役引退から20数年後の話である。「いまだに頭から消えない。音の出ないスローモーションではっきり目に浮かびます。自分たちは、剣の道のように命を懸けていたわけではないけれど、別のものを懸けていたということはあるでしょうね」

 さて、この夜、侍ジャパンに挑んだ阪神は、特に若虎たちは、そんな忘れられない経験をした。

 24歳の才木浩人も新人21歳の富田蓮も大谷翔平に真っ向勝負を挑み、見事に打ち返された。才木は低めフォークで崩しながら、富田は高め直球で詰まらせながら、スタンドまで運ばれたのだ。

 大谷がベンチに退き、対戦のなかった21歳の西純矢は4回2安打無失点の快投を演じて見せた。

 監督・岡田彰布はうなずいていた。実は侍ジャパン相手の投手は中堅・ベテラン勢でいく案が示されていた。岡田が「若いので行け」と指示して替えたのだった。

 前日に語っていた。「明日の才木も富田も西純も向かっていくと思うよ。抑えれば自信になる。打たれてもええんよ。経験になる」。どっちに転んでもプラスになると踏んでいたのだ。

 才木も富田もこれから先、目をつぶれば大谷のバットから放たれたライナーがスタンドに消えていくシーンがフラッシュバックすることだろう。

 それは、江夏の言う「この次」に向けて「失敗から学べる」という野球道だ。それはサムライに通じている。侍ジャパンとの対戦でサムライの心を知ったのである。 =敬称略=(編集委員)

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2023年3月7日のニュース