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【コラム】海外通信員

ファブレガスが語るヴェンゲル監督の父性とアーセナル浅野の今後

[ 2016年7月29日 05:30 ]

アーセナルのベンゲル監督
Photo By AP

 「これまでのキャリアの中で最も重要な人物は、ヴェンゲル監督になるだろう。誰も得ることができない稀有なチャンスを彼が与えてくれたからだ」

 現在チェルシーに所属するスペイン人MFのセスク・ファブレガスがこれまでの輝かしいキャリアを振り返り地元メディアに語った言葉である。

 ファブレガスがバルセロナのカンテラを離れ、ヴェンゲル監督のもとにやってきたのは16歳の時。フィジカル的には決して恵まれていない青年がヴェンゲル監督のもとで、どのようにしてW杯やユーロ、CLのタイトルを獲得する偉大な選手までに育てあげられたのだろうか。そこには今シーズンからアーセナルに加入する日本人ストライカーの浅野拓磨が活躍するためのヒントが隠されている。

 ファブレガスは、今回のインタビューで自身の成功の裏側にはヴェンゲル監督の支えが不可欠だと語っている。「クラブが選手を獲得した後、その判断が正しかったかどうかを証明するのは、選手がそこで結果を出せるかどうか?本当にそれだけのことだ。ヴェンゲル監督は、16歳の自分を獲得する決断をし、チャンスを与えてくれた。そして選手としても人間としても成長させてくれた。彼のことを、父のように慕っていたし、今でも第二の父親のような存在だと思っている」

 宮市がアーセナルのトップチームに定着できずにもがいていた当時、ファブレガスと同様に彼もヴェンゲルの父性を口にしていた。アーセナルからレンタル先に活躍の場を移す際にも、どのようなクラブ環境で、どのような監督のもとでプレーすれば、各々の選手が成長できるかと常に気遣ってくれたようである。浅野が1年目にレンタルでプレーする場合においても、レンタル先をヴェンゲル監督が決断し、そこでのプレー内容を分析し、トップチームに合流可能かどうかを見極めることになるだろう。

 ファブレガスはヴェンゲル監督の元を離れた後、母国スペインのバルセロナに戻った。そしてプレミアリーグ復帰の際は、チェルシーを選択する。選んだクラブがライバル・チェルシーであっただけにファンからは裏切り者のレッテルを貼られてしまう。移籍の裏側を当事者たちは、はっきりと説明していないが、ファブレガスの実父のフランセスク氏と面会した際、彼は次のように語っていた。

 「アーセナルには息子を買い戻すオプションがあったのだが、それを行使しなかった。アーセナルのファンはセスクが忠誠心よりもお金を選んだなどと失望している人がいるかもしれないが、それは事実ではないよ」

 セスクのプレミアリーグ復帰から2年が経過し、そしてヴェンゲル監督の天敵であるモウリーニョがチェルシーを離れた。ほとぼりが少し冷めてきたこのタイミングで、ヴェンゲル監督への思いを発言する機会がやってきたのかもしれない。

 現在のフットボール界は、直接的な結果を明日にでも求められる。ヴェンゲル監督のように長期的な視点でフットボールを捉えることができる環境にいる監督はほぼ見当たらない。選手獲得、クラブ運営、育成にも注力しつつ、CLでは最低限の結果を出し続けている。しかしながら、若手選手を育てあげるチームスタイルではリーグ戦の結果が伴わずに、その手腕の限界を唱える声が多く聞こえるのも事実である。

 浅野はリオ・オリンピック後にチーム練習に合流することが伝えられている。ヴェンゲル監督が浅野に対してこの数年間でどのような決断を下していくのか、アーセナルの父の決断が日本人ストライカーのキャリアを大きく左右するだろう。(竹山友陽=ロンドン通信員)

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