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【コラム】海外通信員

“オリウンディ”頼み?何をもって自国選手とみなすか 人材難イタリア代表

[ 2015年9月12日 05:30 ]

イタリア代表コンテ監督
Photo By AP

 9月6日、2016欧州選手権予選グループHでイタリアはブルガリアと対戦し1-0で勝利。クロアチアがノルウェーに敗れた裏できっちり勝ち点3を積み上げ、首位を固めた。

 序盤から左のエルシャラウィ、右のカンドレーバの両ウイングの突破でペースを握ったイタリアは、前半6分にそのカンドレーバが突破からファウルを誘ってPKを獲得。これをデロッシが決め、あとは相手にペースを譲らずリードを守って勝った…といえば聞こえはいいのだが、実際はそこまで試合巧者だったわけではなかった。むしろたくさんチャンスを作った割に、ゴールはPKによる1点だけというのはいただけない部分もある。しかもブルガリア相手ならまだいいのだが、3日のマルタ戦でもたったの1点。その時は国営放送RAIのスタジオコメンテーターを務めていたズデニク・ゼーマン氏(元ローマ監督)から「子供に見せてはいけない試合」などと言われていた。決定力不足が問題視されるのは、日本代表だけではないようだ。

 強化が進んでいない要因は種々指摘されている。まずアントニオ・コンテ監督が十分な練習時間を取らせてもらっていないこと、そして人材が育っていないことだ。前任のチェーザレ・プランデッリ氏が「普通はクラブで育った選手が代表に呼ばれるというプロセスをたどるが、今は我われ代表チームが(クラブで出場機会のない)若手を育てる原動力となっている」と嘆いていたが、その図式に今も変わりなはない。「それを言い訳にしてはいけないが、セリエAには外国人が多すぎる」と、コンテ監督もまた、イタリア人選手が出場機会を満足に得られない現状に警鐘を鳴らしていた。もっとも、代表でも次代のエースとして期待されていたエルシャラウィが故障がちだったり、マリオ・バロテッリが素行の悪さに愛想を尽かされ、リバプールを追い出されたりといった問題は外国人選手のせいではないのだが…。

 ともかくこの人材難にあって、イタリアサッカー協会(FIGC)は数年前からある現実策を取って対処に当たっている。それが『オリウンディ(帰化した人)』の代表招集である。州によって規則はまちまちだが、かつて移民の送り手となったイタリアでは、自身の3代前にイタリアでのルーツが確認できる外国人は国籍が取得できる(その場合、イタリアでの生活基盤が確立していることが必須条件だが)。そうして、リーグ戦で結果を出している外国人選手に誘いを掛けるのだ。もちろん国籍の選択権は選手にあるのだが、こうすれば国際サッカー連盟(FIFA)が規定する「5年間のリーグ所属義務」というルールを回避することができる。こうして最近加わったのがサンプドリアで活躍していたブラジル出身のエデルと、パレルモでブレークしたアルゼンチン出身のフランコ・バスケスだった。

 ただ、今回は批判も多かった。インテルのロベルト・マンチーニ監督は「あくまで個人的な意見」としつつ「イタリア代表はイタリア人でなければならない。そうでなければ親がイタリアに在住しているものがなるべき」と語った。これはサッカー界のみならず大きな反響を呼び、労働者および自国産業保護の観点から外国人排斥をうたう右派政党「北部同盟」のマッテオ・サルビーニ書記長も「祖母がイタリア人だったというだけで、外国人がアズーリのユニフォームを着るのを見るのは悲しくなる」とも発言した。ただし帰化した選手の代表招集は今に始まったことではなく、古くは100年前にさかのぼる。近年もマウロ・カモラネージやチアゴ・モッタらが代表に定着した。批判に対してFIGCのカルロ・タベッキオ会長は「W杯ドイツ大会では1人の帰化した選手を擁して優勝した(カモラネージのこと)。市民権を持つものは代表になれる。これでこの件は終わりだ」と語った。

 難しい問題である。自国の育成組織保護の観点から考えれば、その最高到達点であるべきイタリア代表に自国の生え抜きの選手が尊重されないのはやはりまずいだろう。しかしながらサッカー界においてもグローバル化が進む現状では、何をもって自国選手とみなすかという線引きもまた難しい。クラブから代表に輩出された選手は、たとえ外国出身であっても”おらが街の代表選手”には変わりないのだ。今回、バスケスを輩出したパレルモのペッペ・イアキーニ監督は「バスケスは母親がイタリア人だ。なんの問題があるのか」と批判にたいして反論する。パレルモで行われたブルガリア戦では地元ファンが「バスケス、バスケス」と試合中からコールし、彼を出さずにコンテ監督が3人目の交代枠を使い切ったときにはブーイングが起こった。

 3月28日のブルガリア戦(アウェー)では、敗色濃厚だった試合をエデルの代表初出場初ゴールによって救われている(試合結果は2ー2のドロー)。「イタリア人はセリエAまで来ると調子に乗って努力しなくなる。そういう意味では、ハングリーな外国人選手から学ぶことは多い」と、ある代表選手は語る。フランスやドイツなど、自国以外のルーツを持つ選手が代表チームに定着することは珍しくなくなった。そうした現実との折り合いをつけつつ、代表チームの強化をいかに理想的な形へもっていくか。世代交代に苦労するイタリア代表が直面する大きな課題である。(神尾光臣=イタリア通信員)

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