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【コラム】海外通信員

明暗を分けたスペイン国王杯決勝~モウリーニョ監督の末路

[ 2013年5月31日 06:00 ]

<国王杯 Rマドリード・Aマドリード>試合前のモウリーニョ監督
Photo By AP

 5月17日に今季のスペイン国王杯決勝レアル・マドリード対アトレティコ・デ・マドリード戦がスペイン国王フアン・カルロス1世陛下夫妻を迎えてレアル・マドリードのホームのサンティアゴ・ベルナベウ・スタジアムで行われた。

 91~92シーズン以来、21年ぶり通算5度目の“マドリード・ダービー”となった決勝は、ホームのレアルが前半14分にエジルの蹴った右CKからクリスティアーノ・ロナウドのヘディングシュートで先制したものの、アトレティコ・デ・マドリードが前半35分にファルカオの粘りのパスからジエゴ・コスタがクロスシュートを決めて同点。延長に入った前半8分に右からコケのセンタリングをミランダが見事にヘディングシュートを決めて2-1と逆転勝ちし、95~96シーズンの2冠制覇以来、17年ぶり通算10度目の優勝を飾った。

 レアルは3本のシュートがポストに当たる不運もあったが、後半31分にジョゼ・モウリーニョ監督が主審の判定に猛烈に抗議して退席処分なり、延長後半9分にはアトレティコのキャプテンのガビのファールに怒ったC・ロナウドがそのガビの顔を蹴って一発レッドカードを受けて退場処分となり、後味の悪いものになった。しかもレアルの印象をさらに悪くしたのは、試合終了後にスペイン国王フアン・カルロス1世陛下が両チームの選手と監督に記念のメダルとカップを渡す表彰式に、C・ロナウドとモウリーニョ監督の2人が欠席したことだ。これにはフアン・カルロス1世陛下が驚いたばかりか、スペイン中が呆れ返った。

 このスペイン国王杯決勝で両チームの明暗がくっきりと分かれた。勝者となったアトレティコは、この14年間の”マドリード・ダービー“に通算25試合連続(6引き分け19敗)でずっと勝ちなしだったが、くしくも14年前の99~00シーズンの10月30日のレアルのホームでのスペインリーグ第10節レアル-アトレティコ戦に3-1で勝って以来の大金星を上げて、アトレティコファンを大いに喜ばせた。

 以前にこの海外通信員コラムでも触れたが、昨季の途中の12月23日に就任したディエゴ・シメオネ監督の下でチームが一致団結して戦ったアトレティコは、昨季のヨーロッパリーグ優勝、今季初めの欧州スーパー杯優勝に続いて、このスペイン国王杯優勝で3タイトル目を獲得する快挙を成し遂げた。しかもアトレティコは既にスペインリーグ3位を確保し、今季の目標であった5季ぶりとなる来季のCL出場権を獲得し、古豪復活が期待される。

 一方、敗者となったレアルは、昨季の12年1月18日のスペイン国王杯準々決勝第1戦でバルセロナに1-2で敗れて以降、これまでホーム公式戦に通算43試合連続で無敗を誇っていたが、同じ町のライバルのアトレティコに敗れる屈辱を味わった。その上、モウリーニョ監督のレアルは、スペインリーグ2位、CL準決勝敗退に続いてスペイン国王杯決勝で敗れて今季のタイトルはスペインスーパー杯だけで終わり、ファンを落胆させた。

 さらにスペイン国王杯決勝後のモウリーニョ監督のコメントが彼の末路を暗示しているかのようだった。アトレティコのシメオネ監督が「チーム全員が熱いハートで一丸となって戦い続け、強敵のレアルのホームで逆転勝ちすることができた。アトレティコファンの素晴らしいところはいつもチームを信じていることだ。彼等に感謝してこの優勝を捧げたい。」と選手を褒め称え、アトレティコファンに感謝したのに対し、レアルのモウリーニョ監督は「アトレティコは公平な勝者ではなく、結果は不公平だったが、サッカーは勝てば官軍となり、主審のジャッジもポストに当たったシュートも全て忘れてしまう。今季は私の監督経験で最悪のシーズンとなった」と、敗戦を受け入れることができず、最後まで主審を批判し、チームやレアルファンへのねぎらいの言葉はまるでなかったのだ。

 このスペイン国王杯決勝の敗戦で、ついにレアルのフロレンティーノ・ペレス会長が動き、モウリーニョ監督と話し合いを持った後、要求のうるさいレアルファンの信頼を取り戻すことができず、彼が限度を超えた周囲のプレッシャーに耐えられなくなったことを理由に16年6月末まで残っている契約を合意の上で解消し、モウリーニョ監督は今季末でレアルを退任することになった。モウリーニョ監督は来季、古巣のチェルシーの監督に就任することがほぼ決まっている。

 自ら“スペシャル・ワン”と名乗るモウリーニョ監督は、レアルでの3年間で1年目にスペイン国王杯決勝で宿敵バルサを敗って18年ぶりに優勝を飾り、2年目でバルサの4季連続スペインリーグ優勝を阻んで4年ぶりにレアルに優勝をもたらしてファンを喜ばせた。CLでも過去6季連続でCL1/8決勝で敗退していたレアルを3季連続で準決勝進出に導いたものの、ファンが待ち望んでいた通算10回目のCL優勝、彼自身の目標でもあった前人未到の3つの違うクラブでCL優勝を果たすことができなった。

 モウリーニョ監督は、過去のポルト、チェルシー、インテルで、彼のやり方でチームを作り、選手とファンの支持を得て成功してきたが、レアルでは事あるごとに選手やメディアと対立し、チームの和と周囲の落ち着きを作り出すことができず、選手にもファンにも最後まで信頼を得ることができなかったことがモウリーニョ監督の末路に結びついたようだ。それは後日、第2キャプテンのセルヒオ・ラモスが「多くの経験があるモウリーニョ監督が周囲のプレッシャーに耐えられないのが原因でレアルから去るとは思えない。レアルに必要なのは選手を信じる監督だ」とコメントしたことでもわかる。

 巷ではレアルの宿命のライバルのバルサの黄金時代は終わりつつあると囁かれているが、そのバルサは2季ぶりにスペインリーグに優勝し、依然として良いチームであることを示した上に、早くも来季に向けてブラジル代表、そしてサントスのアイドルのネイマールを獲得し、メッシとの最強コンビ誕生に新たな期待が寄せられている。

 一方、レアルは来季にジダンがトップチームに関わる仕事を引き受け、後任にパリ・サンジェルマンのアンチェロッティ監督を狙っているとの噂だが、良くも悪くも“スペシャル・ワン”だったモウリーニョ監督が去った後の来季のレアルには大きな変化がありそうだ。(小田郁子=バルセロナ通信員)

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