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【コラム】海外通信員

ペレス会長の野望 21世紀のベルナベウとなる道

[ 2017年6月15日 06:00 ]

 マドリードのほぼすべての道路でクラクションがリズムをつけて鳴り続ける夜が、2週間で2度あった。レアル・マドリードがリーガエスパニョーラ、チャンピオンズリーグで優勝を飾った夜だ。レアルが2冠を達成したのは1958年以来。本拠地の名称でもあるサンティアゴ・ベルナベウが会長を務め、アルフレド・ディステファノがエースに君臨した時代以降では初となる。今回それを成し遂げた会長はフロレンティーノ・ペレス、エースはクリスティアーノ・ロナウドだった。

 「私がレアル・マドリードの試合を最初に見たのは、4歳の時だった。そのしるしが、口角あたりに傷として残っている。ゴールが決まった際に両親の方へ走ったが、階段でつまずいて口を切ったんだ。あの試合では、あれだけ高くボールが上がることに目を奪われた」

 そう語るペレスが恋焦がれたレアルは、まさしくベルナベウ&ディステファノが引っ張り、チャンピオンズカップ5連覇を達成した時代のクラブだ。ペレスのクラブ運営はベルナベウの方針を踏襲したものであり、それによってレアルの新たなる黄金期を生み出そうとしている。

 レアルは元選手だったベルナベウが会長となり、ディステファノをスター選手として迎え入れたときから飛躍を果たした。ベルナベウはサッカークラブの活躍の舞台が国内だけにとどまるものではないとの認識の下、フランス『レキップ』の記者ガブエリル・アノが提唱した欧州各国の王者による大会の創設に尽力。1955〜56年シーズン、チャンピオンズリーグの前身大会チャンピオンズカップが誕生し、ディステファノ擁するレアルは同大会で5連覇を果たした。

 そしてベルナベウは国境を越えて行われるこの大会の創設をきっかけとして、世界最高の選手たちを集める政策を推し進め、そのスポーツ面のポテンシャルを誇示するために世界各国で親善試合に臨んだ。その頃のクラブの収入は実質的に入場料だけだったが、ディステファノ、パコ・ヘント、レイモンド・コパ、フェレンツ・プスカシュ、ホセ・サンタ・マリアといった華やかなスター選手たちを擁すレアルは、スペイン国外でも需要を生み出した。

 ペレスは1995年に初めて会長選に立候補し、その際にはラモン・メンドーサに僅差で敗れた。だが1997年にスペイン最大の建設会社ACSの会長となり、その2年後に行われた選挙で、再選を狙ったロレンソ・サンスを3167票差(1万469票対1万3302票)で打ち破った。その運営方針は1995年の会長選から明確で、移籍金にどれほどの額をつぎ込もうともレアルは世界最高の選手たちを集めなければならない、というものだった。

 ペレスはその方針の下、第一次政権ではルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、デイビッド・ベッカム、マイケル・オーウェンらを獲得。そして2009年よりスタートした第二次政権では、C・ロナウド、カカー、ベンゼマ、アンヘル・ディマリア、メスト・エジル、ルカ・モドリッチ、ガレス・ベイル、ハメス・ロドリゲスを確保した。特に現在の第二次政権では、6億ユーロを超える予算を記録するなどクラブは財政的に著しい成長を果たしており、スペイン国内外の将来有望な若手選手もかき集めるなど、選手層をかつてない程に厚くしている。

 ただ、ペレスのレアルは批判にさらされることも常だった。それはスターと呼ばれる選手が攻撃的な選手に偏り、また招へいする監督にも一貫性がなく、チームのプレースタイルが一向に定まらないためである。だがペレスにとって、プレースタイルは決して必要不可欠なものではなかったのだろう。レアルはベルナベウ&ディステファノの時代からこれまで一貫したプレースタイルを持たなかったし、言ってしまえば「勝つこと」だけが唯一無二のスタイルだった。マドリディスモ(レアル主義)の根幹にあるものは、逆境でも諦めない不撓不屈の精神とされるが、現在はスタイルを持たず批判されるという逆境さえも乗り越えたように映る。その驚異的な選手層によって。

 ペレスの現政権と、ベルナベウ以降のこれまでの政権には一つの違いがある。主役の一人に監督、つまりはジダンが含まれていることだ。レアルが成功を収め、それが振り返られるときに代表的な人物として挙げられるのは常に選手だった。ディステファノの時代はもとより7回目のチャンピオンズリーグ優勝以降もプレドラグ・ミヤトビッチ、ラウール・ゴンサレス、ジダン、セルヒオ・ラモス、C・ロナウドと全員が選手だった。けれども11回目と今回の12回目の優勝は、C・ロナウドのほかテクニカルエリアに居場所を変えたジダンのものとしても扱われるはずだ。

 ジダンはその選手時代に獲得した威厳と素朴な人柄を生かしながら、C・ロナウドの温存含めて分厚い選手層のローテーションを採用するなど、チームを見事に管理した。昨季途中、解任したラファ・ベニテスに代わり、Bチームを率いていたジダンを登用することに確信を持っていたのはペレスだけだったというが、それは見事に功を奏した。今のレアルは、監督までがスターである。

 ペレスがこれまで獲得したチャンピオンズリーグは4回で、ここ4シーズンではその内3つを手中に収めた。ベルナベウは合計で6回にわたってチャンピオンズカップを獲得したが、そのレアルに憧れたペレスは今、21世紀のベルナベウとなる道を着実に歩んでいる。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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