五輪開閉会式演出トップ小林氏解任「愚かな言葉選び間違い」、お笑いコンビ時代に大量虐殺揶揄するコント

[ 2021年7月23日 05:30 ]

パラリンピック開閉会式の記者会見で小林賢太郎氏を紹介する佐々木宏氏(右)
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 東京五輪の開閉会式のショーディレクターを務めていた小林賢太郎氏(48)の解任に、開会式前日の22日、列島に衝撃が走った。以前活動していたお笑いコンビ「ラーメンズ」時代の1998年ごろに手掛けた、ナチスドイツによるユダヤ人大量虐殺を揶揄(やゆ)するコントの動画がネット上で拡散。米ユダヤ系人権団体が非難の声明を発表した。五輪を巡り離職した関係者は今年だけで5人目。負の連鎖が続いている。

 問題となったのは、コンビが教育番組のパロディー風キャラクターに扮し、番組企画を話し合うコント。小林は大量の人型の切り抜きを見て「“ユダヤ人大量惨殺ごっこ”やろうって言った時のな」などと発言していた。

 歴史的惨事に対しての認識不足は否めず、この日、米ユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は「どれだけ創造性ある人物でもナチスによる民族大量虐殺の犠牲者をあざける権利はない」と声明。「この人物が東京五輪に関わることは(亡くなった)600万人のユダヤ人の記憶に対する侮辱」と批判した。

 大会組織委は即座に解任を決断。小林氏は組織委を通じ文書で「思うように人を笑わせられなくて、浅はかに人の気を引こうとしていた頃だと思います」とし「自分の愚かな言葉選びが間違いだったということを理解し反省しています」と謝罪した。

 開閉会式の制作・演出チームを巡っては19日、ミュージシャンの小山田圭吾(52)が、過去のいじめ告白が発覚して辞任。20日には絵本作家のぶみ氏が教員へのいじめ発言などが問題視され、関連イベント出演を辞退したばかりだった。

 今年2月には森喜朗元首相が女性蔑視発言で組織委会長を辞任。3月には演出の総合統括だった佐々木宏氏がタレントの容姿を侮辱する発言をしていたとして辞任しており、今年の五輪関係者の離職は小林氏で5人目だ。

 関係者によると、シュールとも言われた独創的なラーメンズのコントは小林氏が全て手掛けており高い評価を受けていた。子供の頃から空き箱でオリジナルのおもちゃを作るなど創造力にたけていた。小学生の頃には編集長になって漫画雑誌を制作。これが人を笑わせることの原点だった。

 芸人になってからも演劇団体を立ち上げたり、ソロでパントマイムやマジック、映像を駆使したステージを披露するなど、舞台という空間で人を笑わせることにこだわった。演芸関係者は「芸人というよりもアーティストに近い。自分が作ったものでどうしたら人を笑わせられるか突き詰めていた。頑固なところもあった」とした。コント100本をYouTubeに投稿し、広告収入を災害復興のため日本赤十字社に寄付するような側面もあった。

 解任を受け「サイモン…」は「正しい決断を下した」と評価。コントを発表してから内容を省みる時間が十分あったと指摘し「“私は間違っていた。謝罪したい”と申し出ていれば、このような状況にはなっていなかったはずだ」とした。

 ▽ホロコースト 第2次世界大戦中、ドイツの政権党・ナチスとその協力者によって国家的に行われたユダヤ人の大量虐殺。1933年、アドルフ・ヒトラーが首相就任後、ユダヤ人への迫害を強化。ユダヤ人は財産を没収され、市民権を剥奪。強制収容所に送られガス室などで殺害された。1945年までに約600万人が殺害されたとされる。

 ▽サイモン・ウィーゼンタール・センター 米ロサンゼルスに本部を置く米ユダヤ系団体。ナチスドイツの迫害を生き延び、戦後にその犯罪追及に尽力したサイモン・ウィーゼンタール氏にちなみ1977年設立。民間の寄付で成り立つ非政府組織ながら、国際的に影響力を持つ。日本を巡っては、1995年にホロコーストを否定する内容の記事を掲載した雑誌「マルコポーロ」に抗議し、同誌は廃刊になった。2018年には韓国の人気グループ「BTS」がナチス親衛隊風の衣装を着ていたことに謝罪を要求した。

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