【内田雅也の追球】「赤白」ボールの判別 照準を定め食らいついた梅野、佐藤輝、大山

[ 2022年6月25日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6ー4中日 ( 2022年6月24日    甲子園 )

<神・中>8回、梅野は勝ち越しの2点適時打を放つ。投手清水(撮影・北條 貴史)
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 「ピッチトンネル」理論が広まった今では常識だが、打者はボールとバットが当たる瞬間を見てはいない。投球が本塁の手前1・7メートル~2・3メートルより近づくと人間の目では追えない。つまり予測で打っているわけだ。

 この夜の先発、青柳晃洋、大野雄大は下手、左投げとタイプは異なるが、ともにツーシームを得意とする。シュートしながら沈み、球速もあり、速球フォーシームと見分けがつきづらい。

 1940~50年代に活躍した大リーグ「最後の4割打者」テッド・ウィリアムズはこの2種類を見分けた。ロジャー・エンジェル『球場(スタジアム)へいこう』(東京書籍)で語っている。

 「見え方が違う。ツーシーマーの方が白く見え、フォーシーマーは赤いままだ」。ボールが1回転する間に赤い糸の縫い目(シーム)が4本巡るフォーシームを「赤い球」、2本のツーシームを白い革部分が多く見え「白い球」と呼んだ。「ならば白い球を打つ際は変化を予測し、ボール1個分、下方を振ればいい。実際見えるボールでなく、仮想ボールを打つ……と言えば分かるかな」

 優れた動体視力だが、集中力が高まれば「縫い目まで見えた」という打者もいる。

 その点で6回裏1死満塁、大野のフォーシームをライナーで遊撃頭上を抜く左前2点打した糸原健斗は「赤い球」と見えていたのかもしれない。

 同様に8回表1死二、三塁、青柳は三ツ俣大樹にツーシームを2点打された。「白い球」狙いで「仮想ボール」を振られた。だからゴロにならず、ライナー性飛球で中前に落ちたのだろう。

 ウィリアムズの時代から半世紀。今ではフォーク(スプリッター)も「白い球」だが相当に球速があり、フォーシームとの見分けが難しい。8回裏登板の中日・清水達也のフォークも140キロ台だ。梅野隆太郎は高めに照準を定め「白い球」を左前に決勝打したのだ。

 この回、佐藤輝明、大山悠輔の主軸が「赤白」の判別に苦しみながら食らいつき、ともに7球目を安打したのも特筆しておきたい。

 もう一つ。8回表、湯浅京己の好捕好送球や、9回表、同点走者となる右中間安打を単打で止めた佐藤輝の素早い送球が光る。好守もあっての勝利だった。=敬称略=(編集委員)

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