新井宏昌氏がオリ・吉田正の「三振しない理由」を徹底解説 あの天才打者との「共通点」とは

[ 2021年7月7日 08:00 ]

オリックス・吉田正尚の打撃連続写真 (7月2日、西武戦)

 オリックス、ソフトバンク、広島で打撃コーチなどを歴任した新井宏昌氏(69)がパ・リーグ首位快走の原動力となっているオリックス・吉田正尚外野手(27)の“三振しない理由”を多方面から分析する。南海、近鉄で通算2038安打。三振は18年間の現役生活、7963打席でわずかに422だった。三振しない男が“三振しない理由”を探る。

 理由としては、一言で言えば「反動で打ちに行くようなタイミングの取り方をしていない」ということでしょう。言い換えれば、反動を利用して打とうとしていないこと。非常に理にかなったフォーム、スイングですが、打席内での一連の流れで、ポイントを見て行きたいと思います。

 まずは構え。非常に投球がよく見えるような無理のない構えで、打ちに行く準備がしっかりとできています。グリップは高すぎず、低すぎず、リラックスして、いつでも振り出して行ける位置に置いています。力が適度に抜けた状態で、理想的な位置と言えます。

 そこからステップに移りますが、踏み出す右足を含めて、動作が極めて静かです。足で反動を付け、体全体で勢いを付けて打とうとしていないことが分かります。無駄な力は入っていません。勢いを付けると、崩された時に悪球でも止まることができなくなることがあります。自分自身の動きを少なくし、静かにいることで、体のバランスがおかしいと感じた時は自然と止まることができる。瞬間的に自分の全力が出ないと感じれば、スイングをやめることもできるのです。相手投手を自分の間合いに入れているとも言えます。

 彼は構えから、振りに行くまでの動きで、頭の位置が動くことがありません。多少、崩されて、体が前に出されても重心は前に移らず、真ん中に残っている。写真ではステップを終えた後、両足がキレイな二等辺三角形を描いています。そして残されたバットはいつでも振り出せる状態になっている。これは、いい打者の共通点です。イチローもそうでした。彼は、足は振り子で動いていましたが、上半身はそれに静かについて行く感じでした。実際には反動を付けているように見えるが、上半身は静かに平行移動。そうすることで目線がブレることなく、投球をじっくり観察することができるのです。

 技術的な部分に加えて、メンタル面も三振しない理由に加えてもいいかもしれません。イチローはヒットを打ちたい、ホームランを打ちたいという思いより、とにかく「相手投手に負けたくない」という思いが強い打者でした。凡打で打ち取られて終わりたくないという意識が強かった打者です。吉田選手にも共通点を感じます。私にも経験があるのですが、たまにホームランなんかを打ってしまうと「また打てたらいいな…」なんて考えてしまうものです。そういう色気が出ると、知らず知らず体の開きが早くなって、回転も速くなる。

 彼は年齢的には若手から中堅ですが、チームの主軸で得点源とならなければならない選手。責任感も誰よりも強いはずですが、そんな立場にあっても、力みや色気を見せるような打席がない。投手との勝負に集中している。イチローと同じように、気持ちの整理が上手なのではないか。これは話してみないと分かりませんが。

 技術、メンタルを実現するためには土台となる体も不可欠です。力感を感じさせず、それでいて打球が遠くに飛んでいく打席を多く見ます。前述のように彼はステップが終わったとき、どんな態勢でも軸は真ん中にある。そこから下半身、腰を使ってブンと回る。バットは後から出てきます。惚れ惚れするような動きで、体幹の強さがなければできない動きです。様々なトレーニングに取り組み、瞬間に最大限の力を出せるような研究をした結果でしょう。反動を使わず、持っている力を最大限に発揮できる打者。私の現役時代で言えば門田博光さん。携わった選手なら松中信彦に近いタイプでしょうか。

 つまり、まずは確固とした技術がある。そしてそれを実現できる心と体を持っている。自分の打撃を貫いていく課程で、結果的に三振が少なくなっているということでしょう。今やっている練習に間違いはなく“これをしておけば大丈夫だ”という練習法を持っているはずです。仮に私が打撃コーチになっても、今の打撃をしている限り、教える事はありません。イチローと同じく、打線から外す事のできない打者。首位争いをしていれば、シーズン後半には厳しい球も増えてきますが、ケガだけには気をつけて欲しいと思います。そして同時にそういう状況こそが、彼のさらなる真価を発揮する場になるでしょう。

 ◇新井 宏昌(あらい・ひろまさ)1952年(昭27)4月26日生まれ、大阪府大阪市出身の69歳。PL学園から法大を経て74年ドラフト2位で南海入団。86年に近鉄に移籍し、翌年に打率・366で首位打者獲得。18年間で通算2038安打。打率・291、88本塁打、680打点、300犠打を記録し、ベストナインも4度獲得した。仰木監督のもと、オリックス打撃コーチとして95年のリーグ制覇、96年の日本一に貢献。イチローを指導した事でも知られる。その後もソフトバンク、広島の打撃コーチなどを歴任し、数々の一流選手を指導した。1メートル75、66キロ。右投げ左打ち。

  〇…確実性を備えた長距離砲が吉田正だ。今季は7月6日現在で80試合に出場し、打率・340、15本塁打、49打点。三振は343打席で、わずかに17しかない。三振数を打席数で割った「三振率」は5・0%。昨年は492打席、29三振で5・9%。数字的には、三振をしない確率は上がっている。

 新井氏は通算7963打席、422三振で三振率は5・3%。全130試合に出場し、538打席、15三振だった南海時代の83年の三振率は実に2・8%。

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