【内田雅也の追球】基本に帰った阪神の「初球攻撃」 田口KOの5安打すべて初球 打撃復調の兆候

[ 2021年7月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5ー1ヤクルト ( 2021年7月6日    神宮 )

<ヤ・神>3回、大山が左越えに先制本塁打を放つ(撮影・坂田 高浩)
Photo By スポニチ

 初球は打者有利のカウントである。今季の阪神カウント別打撃成績で言えば、打率・357と、3ボール―0ストライクの・500、2―0の・413、2―1の・370に次いで高い打率を残している=成績は5日現在=。

 この夜の対戦相手のヤクルト、そして阪神でも監督を務めた野村克也は『野村克也 野球論集成』(徳間書店)で打者の「共通事項」として<まず内角の甘いストレートを狙っている>と書いている。<変化球を狙うには相当な根拠と勇気が必要>で<外角低めの凡打ゾーンを死角にして手を出さないようにする>。つまり、打者の基本姿勢である。

 阪神はこの初球攻撃が奏功した。特徴はすでに1回表に表れていた。先頭の近本光司、2番・糸原健斗がともに初球、内角直球を打って凡退したのだ。統計はないが、阪神が初回先頭から2球で2死になった記憶がない。悪く言えば、実にあっさりした攻撃だった。

 ただし、この初球攻撃は実る。3回表先頭、大山悠輔が初球、内角高め直球を左翼席に先制本塁打した。打撃不振で7番に下げられた。17試合ぶりの9号を生んだのは、好調時によくみられた積極果敢な姿勢だった。

 4回表には四球を足場に3安打と犠飛で3点を加えた。ジェフリー・マルテ、佐藤輝明、中野拓夢が放った安打はすべて初球の直球系だった。

 5回表、近本の安打も初球(スライダー)。田口麗斗に浴びせた5安打はすべて初球だった。

 阪神は今季、田口をかもにしていた。田口から見て過去4試合、0勝3敗、防御率6・27、被打率・369だった。

 捕手はこれまでの中村悠平でなく今季初コンビの古賀優大だった。野村の論からすれば、初球に直球を、しかも内角に配するのはバッテリーのミスだ。ただ、前回6月29日の対戦で田口が浴びた10安打のうち7本が変化球だった。古賀は強気に内角直球から入るリードをしたのかもしれない。

 そんな新たな配球にも阪神打者の果敢な姿勢が勝ったわけだ。チーム全体の打撃が低調が長引くなか、各打者が基本に帰った結果とも言える。不振時こそ原点や基本は重要となる。再認識させられた。

 前監督・金本知憲は阪神打線の課題として、よく「まっすぐを打ち返せるか」と話していた。球速はさほど出ない田口の直球ではあるが、初球からファウルなど打ち損じをせずに打ち返したわけである。波のある打線が復調の兆しを見せたとみている。 =敬称略= (編集委員)

続きを表示

2021年7月7日のニュース