【内田雅也の追球】「雑音」なき「世界」――鳥谷去就問題浮上の阪神

[ 2019年8月31日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―4巨人 ( 2019年8月30日    甲子園 )

<神・巨20>ベンチを出てナインを出迎える鳥谷(左)=撮影・坂田高浩
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 かつて阪神球団内では巨人戦をAカードと呼んでいた。他4チームとの試合はBカード。つまり「伝統の一戦」を特別視していた。1980年代まで、そうだった。

 トラ番(阪神担当記者)の間では「最後のAカードが終わったらストーブリーグ」が通り文句だった。電鉄本社を含む球団も「主催巨人戦が終わったら来季に向けて動く」という姿勢だったはずである。

 逆に言えば、Aカード終了まで、きな臭い問題は控え、動くとしても水面下だった。現場に日々の戦いに集中させたいとの配慮、ファンに敢闘姿勢を示す意味合いもあったろうか。いわゆる「雑音」を封じていたのである。

 この伝統――と呼べるかどうか――は近年崩れてきている。まだ夏休み中、甲子園での巨人3連戦が始まる日、鳥谷敬との会談が表面化した。球団は29日、来季戦力構想に入っていない旨を伝えた。

 もちろん、阪神一筋16年の功労者に球団は最大限の誠意や配慮を示したはずだ。実質は現役引退をうながしたのだろう。

 ただし、鳥谷は返事を保留している。引退か、自由契約(他球団への移籍)か、鳥谷の決断を待つことになる。

 そんな中ぶらりんの状態でこの巨人戦を、そしてクライマックスシリーズ(CS)進出がかかる残り試合を戦うわけだ。

 鳥谷が今年2月の沖縄・宜野座キャンプ中、広澤克実(本紙評論家)との対談で口にした言葉を思う。集中力が高まれば「打席のなかで全く音が聞こえていなかった」そうだ。「ゾーン」といわれる状態だろうか。

 だが、昨年5月29日で連続出場が1939試合(歴代2位)で途切れると「以降の何日間は音が聞こえる打席があった」と打ち明けていた。今季は、そして今はどうなのだろう。

 大リーグが舞台の映画『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』の原作はマイクル・シャーラの小説『最後の一球』(ハヤカワ文庫)だ。主人公は元エースのベテランだ。シーズン終盤、球団が来季戦力外、放出要員としたなかで先発登板する。元エースはマウンドに上ると、全盛時のように、周囲の音が一切聞こえなくなる。

 <いま彼がはいろうとしているのはせまく、透明で、強烈な、魔法の世界だった>。それは<高度の精神統一>である。

 鳥谷だけではない。結果がすべての段階にきた。選手たちがすむべきは雑音など聞こえない<魔法の世界>だろう。

 試合は悔しい敗戦だった。甲子園は前売りで完売の超満員だった。鳴り物も歓声も聞こえない世界。鳥谷去就問題も雑音にならずに戦いたいと願った。=敬称略=(編集委員)

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