【内田雅也の追球】センター返しと二塁打――基本に徹した阪神打撃陣

[ 2019年8月24日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8―3ヤクルト ( 2019年8月23日    神宮 )

初回無死、近本は遊撃内野安打を放つ(撮影・坂田 高浩)
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 神宮球場はフェンスまでの距離が両翼97・5メートルに中堅120メートルある。どこの球場でも両翼より中堅の方が20メートル以上広く作られている。なぜか。

 「センターへの打球が一番飛ぶからだよ」と落合博満(元中日監督)が語ったのを覚えている。プロ野球史上ただ一人、3度も三冠王となった打撃人も、誰でも口にするように「センター返しが打撃の基本」と言う。

 まだ中日監督に就く前の2001年に出した著書『コーチング』(ダイヤモンド社)で説明していた。
 <ボールを打つ時は打者の両肩を結ぶ線と平行に打ち返すことだ><マウンドへ向かって打ち返すのが最も理にかなった打ち方だ>。

 ノッカーを例に出していた。ノックでは自分の打ちたい方向を向き、自分のタイミングでトスをあげて打つ。結果として、打球は常に両肩と平行に飛び出す。

 阪神打線はこの夜、この「センター返し」に徹し、ヤクルト先発の左腕・山田大樹を攻略した。

 山田大が投げた5回までに対した打者21人中、2三振と四球を除き、前に飛んだ打球は18本あった。うち17本がセンター方向に飛んでいる。残る1本は投手・高橋遥人が変化球に泳いだ一ゴロだった。

 打球を処理したのは投手、二塁手、遊撃手、中堅手。一塁手は先述の1本。三塁手や右翼手、左翼手の出番はなかった。

 1回表は併殺で2死となった嫌な空気のなか、四球から3連続適時二塁打がすべてセンターに飛んで3点を奪った。しかもすべて2ストライクと追い込まれながら、基本に忠実に打ち返したのだ。3回表の木浪聖也ソロ本塁打も右中間だった。

 救援投手が登板した6回以降は打球16本中、逆に両サイド(右・左翼、一・三塁)の打球が9本に上っている。山田大攻略への「センター返し」が際立つ格好となった。

 もう一つ、目立ったのは5本を数えた二塁打だ。これまた基本に忠実な打撃姿勢の表れだろう。今季の二塁打総数は184本となり、中日に次いで多い。中日のナゴヤドーム、阪神の甲子園球場、ともに本塁打が出づらい球場を本拠地としている。

 「打撃の神様」川上哲治が「共感した」というジョー・ディマジオ(ヤンキース)の言葉を著書『遺言』(文春文庫)に記している。

 「わたしはホームランを打つための練習などしていない。好打者の狙いは常にジャストミートにある。いつも結果としての二塁打を心がけるのだ」

 10安打8点と効率よく、うち6点を2死後にあげる勝負強さも光った。これが、基本のすごみである。=敬称略=(編集委員)

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