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【コラム】海外通信員

帰ってきた「チビ」

[ 2015年8月22日 05:30 ]

フランス代表MFマテュー・ヴァルビュエナ
Photo By AP

 フランスは今年、“狂った夏”を経験した。パリの日陰で40度を記録したかと思いきや、リヨンの日向では53度を記録。眩暈を催すような熱波に襲われたのである。

 気温だけではない。フットボール界でも仰天事件が相次いだ。

 「エル・ロコ(狂人)」のニックネームをもつマルセロ・ビエルサが、シーズン開幕戦の夜にマルセイユ監督の座を放り投げてしまった。かと思えば、リーグアン20クラブ中19クラブが、プロクラブ組合から集団脱退。リーグアンの主力級やポテンシャルが、“金力”を誇るイングランドのクラブに流出する事態も激増してしまった。

 今季チャンピオンズリーグ(CL)を戦うリヨンも、“狂った夏”の例外ではなかった。

 昨季は恐れを知らぬ若者パワーでパリSGを脅かし、堂々2位に輝いたリヨン。FWアレクサンドル・ラカゼットはイブラヒモビッチさえ寄せつけずにリーグ得点王をゲットし、MFナビル・フェキールも大ブレイク。育成センター時代から一緒だった若者たちは、“仲良しガキ軍団”のように暴れ回ったものだった。

 ところが今夏、その歯車が狂ってしまった。高給と名声を手にした何人かが、天狗になり始めたのである。チームの結束は乱れ、7月25日のエミレーツカップでアーセナルに木端微塵にされる(6-0)など、シーズン準備は惨憺たる結果に終わった(8月14日まで7戦中勝利1戦のみ)。

 そんなとき、“彼”がフランスに帰ってきた。MFマテュー・ヴァルビュエナである。

 エリック・ゲレッツから「チビ」の愛称をもらい、8年間もマルセイユを背負って立ち、ディディエ・デシャン率いるフランス代表では1試合を除く全試合に出場し(通算48キャップ7ゴール)、ついにディナモ・モスクワに旅立ったヴァルビュエナ。そのロシアでも大活躍し、今季もすでにロシアリーグ4試合で2ゴール2アシストを決めている。

 そんな彼が戻ってきたことは、今夏リーグアンの数少ない朗報となった。ケガばかりで去って行ったMFヨアン・グルキュフ、ケガで“グルキュフ化”しつつあるMFクレマン・グルニエに代わって、テクニックもガッツも経験も豊富な「チビ」が活躍できれば、リヨンは再び輝くかもしれないからである。予想される布陣は、ヴァルビュエナを4-4-2ダイヤモンドのトップ下に置き、ラカゼットとフェキールを2トップで活かす形だ。

 だが――。問題はオートマティズムである。フランス代表でも、この3人が一緒にプレーしたのはわずか31分。しかも「チビ」の到来までは、フェキールがトップ下を任されるはずだった。プレースキックでも競合するかもしれない。期待の新加入FWクラウディオ・ボーヴュも、親友ラカゼットと2トップを組むはずだったのが、怪しくなってきた。

 実際8月15日のギャンガン戦(0-1でリヨンが勝利)では、ヴァルビュエナ自身は果敢に動いたものの、ラカゼットとフェキールがぱっとせず、連係はいまひとつだった。もっとも、仮にこの3人(+ボーヴュ)の攻撃部門が爆発すれば、リヨンはモナコと並んで2位を狙える。CLも楽しみになってくる。

 果たして帰ってきた「チビ」は、リヨンの若者たちとうまく融合・連係できるだろうか。今季の要注目点である。(結城麻里=パリ通信員)

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