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【コラム】海外通信員

メディアへの扉を閉め始めたマドリー

[ 2015年2月14日 05:30 ]

レアル・マドリードに加入した16歳のノルウェー代表MFウーデゴール(左)
Photo By AP

 スペインのスポーツ新聞で、マドリッドに本拠を構える全国紙『マルカ』と『アス』。この2紙はひいきとしているレアル・マドリードに最もページを割いているが、じつはクラブとの関係が徐々に薄れ始めている。

 アメリカの経済誌『フォーブス』が2014年に発表した調査結果で、34億4000万ドルと最も資産価値の高いプロスポーツクラブに認定されたレアル。ゼネラルディレクター職を務めるホセ・アンヘル・サンチェスは、最も知名度の高いブランドはコカ・コーラであり、二番目にレアルに挙げることも可能と話しながら、「少なくとも、スポーツの分野では疑いようのない事実だ。我々を超える存在はない」と胸を張る。ただし彼らが推し進めるブランディング戦略は、メディアとは相いれないものでもある。実際、クラブは『マルカ』、『アス』と距離を取り始めている。

 スペインを代表するスポーツジャーナリストでもあるアルフレッド・レラーニョが編集長を務める『アス』は、ずいぶん前からレアルとの関係が崩壊している。レラーニョは「レアルは我々の報道に何度も何度も口を出してきた。これはこうしろ、あれはああしろとね」と、過去には報道の裏にペレスがいたことを認めているが、ジョゼ・モウリーニョを批判したことをきっかけにクラブとのコミュニケーションが途絶えた。現在は、ペレス政権について「スタイルなど持っておらず、金以外には何もない。私はもう信じることをやめた」と語り、紙面ではクラブが6億ユーロの総負債を隠していることを指摘するなど、機会がある毎に攻撃的な記事を掲載している。『アス』はリーガエスパニョーラの放送権を有するグルポ・プリサの系列だが、ペレスが同グループに対して、レラーニョの解任を要求する事態にまで発展している。

 一方、一般紙含めてスペインで最高の発行部数を誇る新聞『マルカ』は、『アス』のようにレアルと敵対しているわけではないものの、現在も良好な関係にあるとは言い難い。きっかけとなったのは、レアルがガレス・ベイルを獲得した際に、メディカルチェックでヘルニアを検知していたと報じたためである。クラブ側は新たに獲得したスター選手を傷物のように扱われることを恐れ、声明によって真っ向から否定。その事件をきっかけとして、両者の関係も冷え込みつつある。ただし、こちらは関係が完全に切れたわけではなく、公ではともかく、裏でのつながりはいまだ太いようだ。

 関係の冷え込みには程度の差こそあれ、両紙ともに共通しているのは、レアルが選手のインタビューの機会をほとんど与えていないところだ。『マルカ』はそのため、代表チームを通じてインタビューを手にしたり、空港に張ったりしてチャンスをうかがっている。実際にルカ・モドリッチをマドリードのバラハス空港でつかまえて、独占取材を行うことにも成功したが、同選手はクラブから許可なく話したことを怒られた。また『アス』は前述したリーガの放送権を有するグルポ・プリサの系列であり、同社の有料テレビ放送局『カナル・プリュス』でのインタビューを掲載するなどして、やり繰りしている。

 レアルが両新聞にインタビューの許可を与えない理由は明確だ。記者が選手と親しい関係となり、内部情報を暴露されることを恐れているためである。ただ『マルカ』のある記者によれば、「友人のような関係にある選手たちはそれでもいる」とのことで、いまだに情報源は確保している様子。また同紙はクラブとの自体が完全に切れたわけではないために、利益が一致する際には経営陣からも情報を手にする。経営陣の中で話を持ちかけてくる一番の人物は、ペレス本人。選手獲得を目指した観測気球を打ち上げることなど、何か目的がある場合に『マルカ』に情報を提供している。

 さて、『アス』のマドリード番記者はやりにくいことこの上ない状況ではあるが、『マルカ』も現在のレアルには賛同できないようだ。「情報源によると」「関係者は」「ある選手は」などの曖昧な記事の書き方は、実際につながりのない他メディアも虚偽によって記せるため、イギリスなどに多いイエロージャーナリズムを増長させるのでは、と不安視している記者も少なくない。いずれにしてもマドリードは、世界に発せられるイメージをきれいにしておきたいがために、メディアへの扉を閉め始めた。クラブの公式HPの記事を望ましい報道基準として、メディアに必要以上の情報は与えない、という方針だ。

 ちなみにインタビューについては、スペイン国外の方が獲得しやすい状況になっているが、それでも取りづらいことには変わりなく、大抵は大金が動いていたりスポンサー絡みだったりする。裏事情を一つ記せば、架空のインタビューなどもスペイン国外には存在している。手口としては、選手の代理人などと関係がある番記者に連絡を取り、許可を得て既出のコメントをまとめるというものだ(許可を取らずに捏造するところもあるだろうが)。そういうエアインタビューは内容が薄く、また取材をした証拠となる写真も掲載していないために、すぐ見分けがつくものではあるが……。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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