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【コラム】海外通信員

複雑な思い アルゼンチン4―2ドイツ

[ 2014年9月7日 05:30 ]

親善試合ドイツ戦を選手たちに話をするアルゼンチン代表のマルティーノ監督
Photo By AP

 9月3日にデュッセルドルフで行われた親善試合で、アルゼンチンはドイツに4-2の勝利をおさめた。「タタ」の愛称で親しまれるヘラルド・マルティーノ新監督のデビュー戦を白星で飾ることができたわけだが、アルゼンチンの人たちはこの結果に複雑な感情を抱かずにはいられなかった。

 これを「ワールドカップ決勝のリベンジ」と意識したわけではない。約1カ月半前、ドイツ相手にマラカナンで悔し涙を飲んだ苦い思い出はもう過去のこと。最初にマルティーノ監督が招集したのが全員ワールドカップのメンバーだったことからもわかるとおり(注:その後メッシを始めとする何人かの選手が負傷のため不参加)、この試合は、28年ぶりにワールドカップで準々決勝のハードルを乗り越え、準優勝という好成績をおさめたチームへのオマージュであった。おそらくドイツ側も、勝つことに躍起になるというより、間もなく始まるユーロ2015の予選に向けてのテストを兼ねつつ、質の高いプレーを見せながら好ゲームを披露しようというスタンスだったに違いない。

 ところが、アンヘル・ディマリアがドイツ陣内で暴れ回り、1ゴール3アシストという活躍を見せると、アルゼンチンの人たちは「もしあの決勝にディマリアが出ていたら…」という思いを頭の中から消去できなくなってしまったのだ。

 「今更言っても仕方ないが、ディマリアがいたら我々は優勝していただろう

 SNS上では、メディア関係者からファンに至るまで、実に多くの人たちがやるせない思いを綴った。書き方こそ人それぞれだったが、思っていることは皆同じ。ディマリアがいてくれればドイツの守備陣を翻弄し、鉄壁ノイアーの意表を突く素早いタイミングでゴールを決め、90分のうちに決着をつけることができただろうという考えは、無意味とわかっていても思わず言葉になって外に出てしまった。

 誰もが多大な期待を寄せていたリオネル・メッシが不在でも、セルヒオ・アグエロが相変わらず実力を出し切れない状態にあっても、中盤でルーカス・ビグリアが攻守両面で軸となり、パブロ・サバレタとマルコス・ロホが両サイドから献身的で効果的な攻め上がりを見せ、その先にディマリアさえいれば決定的なチャンスをゴールにつなげられるという確信。後半開始早々に4点差をつけた時点で、アルゼンチンの人たちは大きなため息をつかざるを得なかったのである。

 スポーツ紙オレのレオナルド・ファリネッラ編集長は、「もうドイツと親善試合をするのはやめようじゃないか」と言った。アルゼンチンは過去33年の間、親善試合ではドイツに負けたことがない。敗戦を喫したのは79年が最後で、以後、9試合を行なって7勝2分けという成績を残している。でも今、アルゼンチン人の脳裏には「何のために?」という思いがよぎる。肝心のワールドカップでは4連敗しているからだ。

 とはいえ、今回の勝利はアルゼンチン人の心に虚しさだけを残したわけではない。追加で招集されたFWエリック・ラメラが、メッシを始めとするワールドカップ組の不在を全く感じさせないプレーで勝利に貢献したこと、ビグリアが完全に中盤の主と化したこと、ワールドカップで自信をつけたロホが今後も成長し続ける余地を感じさせたこと、守備陣にメンバーの入れ替えが必要であることが明確にされたこと、そして何よりも、タタ・マルティーノ監督が目指す「プレッシングとポゼッションによる攻撃的サッカー」のスタイルが早くも実戦で見られたことは間違いなくプラスの要素となった。

 国民に複雑な思いを抱かせながらスタートしたマルティーノ体制のアルゼンチンは、10月に北京で宿敵ブラジルと対戦する。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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