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【コラム】海外通信員

アッズーリ、インモービレ待望論 スキラッチも太鼓判

[ 2014年6月14日 05:30 ]

イタリア代表プランデッリ監督(左)FWのファーストチョイスはバロテッリ
Photo By AP

 90年のW杯イタリア大会で得点王となったサルバトーレ・スキラッチは、実はそれまで代表とは縁がないばかりか、セリエAでのプレー経験さえろくになかった選手だった。ところが89~90シーズンにユベントスに引き抜かれてシーズン15ゴールを挙げると、そのまま代表入りを果たし、大会でも控えの立場からチャンスを掴んで6ゴールを挙げた。それから24年、今回のブラジル大会に臨むアッズーリの中に、ファンが当時のスキラッチの姿を重ねて期待を寄せるストライカーがいる。今シーズン、トリノで得点王に輝いたチーロ・インモービレだ。

 シチリアの地元クラブから叩き上げて来たスキラッチとは違い、ユベントスの下部組織出身で若年層の代表にも常連と、若いうちはエリートコースを歩んで来ている。2010年、若手の登竜門として知られるビアレッジョ国際ユース大会に出場すると、10ゴールを挙げて最優秀選手にも選ばれた。もっとも、若年層での輝かしい活躍とは裏腹に、セリエAでの定着には時間が掛かった。トップチームに昇格してもユベントスでは出番が恵まれず、レンタルや共同保有で”修行”に出される。11~12シーズンにはレンタル先のペスカーラ(当時セリエB)で28ゴールを挙げて得点王に輝いたが、翌シーズンに所属したジェノアでは5ゴールに留まる。辛辣なジェノバの地元メディアからは「セリエAを闘える器ではない」というレッテルまで押されてしまっていた。

 当然その間、U―21代表には招集されてもフル代表とは縁が遠かった。しかし今季、彼の運命はがらっと変わる。イタリア屈指のドリブラーであるチェルチと2トップを組むと実力がついに開花したのだ。ゴール前での絶妙なポジショニングに、クロスやゴール前でのこぼれ球に対する鋭い嗅覚でゴールを量産。遠めの距離からでも自信を持ってミドルを蹴り込み、足元の技術も繊細なので自分で抜いてゴールも決められる。最終的には22ゴールを達成、そしてボルシア・ドルトムントへの移籍まで決定した。

 そしてW杯開幕を前に、そんなインモービレに対する待望論がにわかに高まっているのだ。アッズーリにはあのバロテッリがいるのだが、今季ミランでは思うように活躍が出来ず、しかも相変わらずメディアやファンには性格面を問題視され続けている。一方でインモービレは6日の練習試合、フルミネンセ戦でハットトリックを達成。それを受けて地元紙には「チーロかバロか?イタリアは(いまだ)二つに分かれる」(ガゼッタ・デッロ・スポルト)「チーロをプレーさせろ」(コリエレ・デッロ・(スポルト)などという大見出しが踊るようになっている。

 さて、どうなるか。「バロテッリとインモービレの両者を2トップで並べればいいじゃないか」という見方もできるが、あいにくプランデッリ監督の頭の中にそのプランはないらしい。「バロテッリか、インモービレのどちらかだ。中盤を5人から4人に削ってしまうと守備ががら空きになってしまう」。ポゼッションサッカーへの転換を進め、ピルロとベラッティの新旧ゲームメーカーのに共存さえトライしている今のイタリア代表は、最近の練習試合ではカウンターへの脆さを見せていた。FWの枠は一つ。バロテッリがエースストライカーの座を守るのか、それともスキラッチよろしくインモービレが大会中にその座を奪うのか、という話になってくるのである。

 現時点では、ファーストチョイスは間違いなくバロテッリだろう。卓越した身体能力に加え足元も非常に柔らかく、ツボにはまれば手が付けられないのは過去の実績が証明している。だが、センターフォワードとしての動きがいつまでたっても上達しないという指摘も、サッカー関係者の間では根強い。つい最近もミランのベルルスコーニ会長が「バロテッリはもう少しゴール前に張っているべき。CFとしての動きを覚えて欲しい」と語っていた。

 一方でインモービレは、センターフォワードこそが主戦場。しかもどこからも点を決められる爆発力に加え、守備なども懸命にこなす。トリノのベントゥーラ監督は「あれだけ必死に練習し、試合でもあれだけチームのために働く選手はそうそういない。もし彼を招集するなら、プランデッリ監督は男を上げる事になるだろう」とまで語っていた。少なくとも、バロテッリにない持ち味を持っているのは確かだ。「インモービレは自分の成功を繰り返す事が出来る」とスキラッチ自身も地元紙に語っていたが、そうなるかどうかに注目だ。(神尾光臣=イタリア通信員)

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