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【コラム】海外通信員

ストライカーパレルモの引退、彼の魅力とは何か?

[ 2012年2月24日 06:00 ]

 昨年11年に現役を引退したボカのパレルモが、12年2月4日、約57000人超満員のボカファンが見守る中、“ボンボネ―ラ”スタジアムで引退セレモニーを行った。

 パレルモと言えば、日本のサッカーファンには00年のトヨタカップ、ボカ-レアル・マドリードで2得点し、当時最強といわれたレアルを破った立役者として記憶に残っているはず。73年11月3日生まれの37歳、ブエノスアイレスから南に約60キロのラプラタ市で生まれ、92年に地元の名門エストゥディアンテス・デ・ラプラタでデビューしてからアルゼンチンのストライカー、そして世界のストライカーとしてゴールを決め続けてきた。

 1メートル89の長身、テクンシャンが多い南米だが、その球さばきは決してうまいとはいえず、いわゆる南米的なストライカーではなかった。しかし、パレルモは高さという自分の特徴を最大限に生かし、プロとして得点を量産してきた。オールランドプレーヤ―ではないが、TITAN(ティタン)英語でタイタン、巨人、超人というニックネームの通り、ヘディングには強く、ボカでは236ゴールを決め、ボカ歴代得点者の1位の座を勝ち取った。その間、何度も大きなケガに悩んだが、彼は「もう一度ゴールを決める」という目標を忘れず、その都度よみがえった。まれにみる精神力だ。

 余談だが、彼が現役時代住んでいたマンションには、アルゼンチンに進出している日系企業の駐在員も多数住んでいた。パレルモはブエノスアイレス全体が見渡せるマンションの最上階に住んでおり、日本人駐在員と何度もエレベーターで一緒になった。しかし彼は気取ることなく普通に接し、ファンを作っていった。つまり、パレルモはサッカーに欠かせないチームプレーができる選手だということだ。「1人でゴールを決めることはできない。ここまでゴールを量産できたのは、自分の力だけではない」と、いうことを熟知している。それはパレルモの人柄に負うところも多い。

 サッカー選手といっても人間だ。今まで多く選手を見てきたが、インタビューも受けない選手、報道陣を大切にしない選手は結果が出なくなった時、誰からも相手にされなくなることがある。選手も報道陣も人間で、最後は人間性が重視される。

 ヨーロッパでプレーするアルゼンチンストライカーといえば、最近ではイングランドのマンチェスター・シティーに所属するアグエロ(マラドーナの次女と結婚)の活躍が目立っている。しかし、アルゼンチン国内リーグにはストライカーがいない、パレルモが引退したことでそれがさらに顕著になる。南米の選手は経済的な理由から活躍するとすぐにヨーロッパに移籍してしまう選手が多いからだ。

 短いサッカー人生の中でプロとして自分のこだわりをもって海外でプレーするのは当然で、尊重するべきことだ。しかし、どこでプレーしようともパレルモのように1人の人間であることを忘れず、チームメートからも親しまれる選手にならないといけないということだ。まずはサッカーの原点である「チームプレーとは何か」をもう一度、考え直さないといけない。そうすればもっと素晴らしいストライカー、プレーヤーがアルゼンチンから数多く生まれてくるに違いない。

 個人プレーが多いアルゼンチンサッカー、アルゼンチンの特徴でもあるのだが、現代サッカーはそれだけではもう通用しない。これからは「激しさ」、「遊び心のある個人プレー」に「チームワークの心」をプラスして、86年から戻ってきていないW杯を持ち帰ってほしい。(大野賢司=ブエノスアイレス通信員)

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