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【コラム】海外通信員

レアルの不振 ジダンと選手たちの間にある深い絆

[ 2018年2月20日 12:15 ]

欧州CL決勝T1回戦パリSG戦、チーム3点目を決めたレアル・マドリードのDFマルセロ(右)とジダン監督
Photo By AP

 14日のチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦ファーストレグ、レアル・マドリードは本拠地サンティアゴ・ベルナベウでのパリ・サンジェルマン戦を3−1で制した。リーガエスパニョーラでは首位バルセロナに大差を付けられて優勝の可能性がほぼなくなり、国王杯では準々決勝で敗退するという泥沼の状況で、今回の勝利は一時的ではあるものの、チームに対する称賛の声をもたらした。「マドリードはやはり欧州の舞台では強い」と、CL3連覇を果たす期待すら生み出している。試合後会見に出席したレアル監督のジネディーヌ・ジダンは、いつも通り屈託のない笑みを浮かべながら勝利を噛み締め、言葉を紡いでいった。ジダンがレアルのトップチームの監督に就任した直後、僕は次のような印象を記したことがある。

 「これまで様々な監督の会見に立ち会ってきたが、彼のように自然体で振舞うようなタイプは存在しなかった。選手時代のジダンの素朴な人柄には、私も好感を覚えていた。が、立場を変えても何ら変わらない様子には、監督としての経験が不足しているのではないか、という危惧を抱いてしまう」

 しかし蓋(ふた)を開けてみれば、監督ジダンはこのような危惧とは裏腹に、2年半の間に8タイトルを獲得するなどレアル史上においても有数の成績を収めている。現役時代、史上最高の選手の一人と扱われながらも、まったく驕りがなかったことで知られる人物を、前例と比較する方が間違っていたということだろう。

 公の場、会見や練習で見るジダンの振る舞いは、あの頃と変わっていない。今年で45歳となり、少しは老けたようにも映るが、しかし選手に気さくに話しかけたり時折練習に参加したりする。選手たちとの間に一線を引き、直接的なコミュニケーションをアシスタントコーチやフィジカルコーチに任せる監督もいるが、ジダンはまるで監督兼選手のようだ。そしておそらく、そうした振る舞いが昨季までの成功を呼び寄せた。

 ジダンの前にレアルを率いていたラファ・ベニテスは、現役時代の経験の乏しさから選手たちに「10番さま」と皮肉られていたが、ジダンは正真正銘の「世界最高の10番」だったのだ。フランス人指揮官を尊敬する選手たちは、彼と親しく接することでモチベーションを得ている。今季からレアルの10番を背負うルカ・モドリッチならば、ジダンを一言で表すならばとの問いに「フットボール」と返答し、こう続けた。

 「ジダンとは、フットボールについてよく話をする。彼もそういうことを話すのが好きなんだ。本当に何でも語り合う。昔のことや、彼のこと、彼が見せていたプレーについてとか……。ジダンのフットボールの話には引き込まれてしまう。これまでのジダンがどういう存在だったかということに鑑みても、彼の考えがピッチに立つ自分の後押しになるなんて、本当に誇り高い」

 レアルという超エリート集団にあって、心の底から敬意を集められる監督というのは、じつに稀有である。その一方でジダンも「彼らのような選手たちのプレーを、練習を見られるというのは喜びであり、じつに甘美なことだ。選手であったという過去は過去でしかないが、しかし彼らのプレーを見つめていたいと思う。このチームのクオリティーに、私は陶酔しているんだ」と、自身が率いる選手たちを称賛する。

 ただ今季のレアルの不振は、ジダンと現選手たちの間にある深い絆に起因しているのかもしれない。レアルが昨夏の移籍市場でチームに加えたのはダニ・セバジョス、テオ・エルナンデス、ヘスス・バジェホ、ボルハ・マジョラルと21歳以下の若手ばかりで、この冬の市場ではアスレティック・ビルバオの将来有望なGKケパ・アリサバラガを獲得する可能性があったが、ジダンが現守護神ケイロール・ナバスへの信頼を強調するため首を横に振った。ジダンは現陣容の主力選手たちにチーム内競争を強いようとはしなかった。

 いずれにしても、もう賽(さい)は投げられている。ジダンと彼が信じる選手たちは今季後半戦、一枚岩であることを武器にしてCL三連覇を目指さなくてはならない。とりあえず、パリとのファーストレグは、このチームがまだ信用に足ることを示していた。その試合に集まったベルナベウの観客は、「コモ・ノ・テ・ボイ・ア・ケレール(どうして愛さずにいられようか)」というお馴染みのチャントを力の限り歌っていた。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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