石川さゆり 紅白45回目の出場 50周年の先へ「しがらみにとらわれず届ける」

[ 2022年12月21日 08:30 ]

デビュー50周年、紅白などについて語った石川さゆり
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 【牧 元一の孤人焦点】大みそかのNHK「紅白歌合戦」に出場する歌手の石川さゆり(64)がインタビューに応じ、デビュー50周年となった今年の活動を振り返った。

 大きな節目となったのは10月29日、紅白と同じ会場のNHKホールで行った記念リサイタル。アンコールの幕が上がると、観客の盛大な拍手を受けていきなり泣き始め、長い間、言葉もなく涙を流し続けた。

 「涙が止まりませんでした。私はあんな拍手を聞いた記憶がありません。3階の隅々までお客さまに入っていただいて、マスクをして声援を送れない分、拍手をしていただきました。NHKホールでは紅白でも『うたコン』でもお客さまのエネルギーを感じているんですけど、あの日の拍手から感じたエネルギーは全く違うものでした。自分が50年やって来たことをみなさまに認めてもらった。先に進むことを許された。この50年は間違っていなかった。そう思うことができて、とてもうれしかったです」

 5月29日に東京競馬場で受けた拍手も大きかった。日本ダービーのスタートを控え、6万人以上の観衆を前にアカペラで国歌を独唱した時のことだ。

 「ドキドキしました。『君が代』は難しい歌で、歌い始めの声の高さが良いと思っても、次第に上がっていくので、途中で『高く出過ぎた…』と後悔することもあります。だから、どれくらいの高さで歌い始めたら良いか考えました。競馬場には近寄りがたいイメージを持っていたんですけど、ベビーカーを押したご夫婦、ご家族連れがたくさんいて、イメージが変わりました。何より、お馬さんが本当にきれいな目をしいたのが印象的でした。天気も良くて、歌っていて、気持ちが良かったです」

 3月25日に故郷の熊本城ホールで行ったコンサートが50周年記念の幕開け。89歳の母親が同行し、親子水入らずの時間を過ごすことができた。

 「母と2人だけの時間は久しぶりでした。母に車いすに乗ってもらって行きましたけど、本当に行って良かったです。東京にいると、自分にも娘がいたり、ほかの家族もいたりするので、2人だけになれる時間があまりないんです。熊本城を見て、桜を見て、熊本にいた頃の話をして、一緒にお風呂に入って背中を流しました。自分の原点の場所で50周年を始められるのは幸せなことだと思いました」

 そして、50周年の大舞台の紅白。今年の出場者の中で最多の45回目の出場となる。

 「デビュー5年目、19歳の時に『津軽海峡・冬景色』で初めて出させていただきました。出産を控えていた時だけ辞退させていただきましたけど、それ以外はずっと大みそかはあの場所で歌っています。昭和、平成、令和と時代が三つ目になって、不思議な感じがします。私がやっているのは、毎日歌いながら過ごすこと、小さなことの積み重ねです。長きにわたってみなさまが応援してくださっているおかげだと思っています」

 年が明ければ、2月15日に50周年記念アルバム第2弾「Transcend(トランセンド)」を発売する予定。サウンドプロデュースに斎藤ネコ氏を起用し、レコーディング界の巨匠・内沼映二氏の手によって現在の最高音質の作品を制作する。収録曲は「津軽海峡・冬景色」「天城越え」「ウイスキーが、お好きでしょ」など計6曲だ。

 「音にこだわっています。いま制作中ですけど、これ以上ハイレベルな音は作れないというところまで追求しています。オーケストラとの同時録音で、しかも一発録りなので、凄い緊張感があります。いすが動いてコキッと鳴ったり、バイオリンがちょっとキッと鳴ったりすると全て聞こえてしまいます。もちろん、私の息づかいも聞こえます。これまでで最も難しいレコーディングかもしれません。お家に帰ると、ぐったりして、己との戦いをしている気がします。このお話をいただいた時、誰が聞きたがるだろう?と思いもしたけれど、そういうことをやってみるのもいいかな、と思いました。みんなが集中してレコーディングしている空気感を楽しんでいただきたいです」

 60周年に向けた歩みも、これまでと同じように挑戦の連続になりそうだ。

 「しがらみにとらわれず、自分がいま何を音楽で表現したいか、何をみなさまに届けたいか、そういうものをやってみたいです。コロナ禍で、考える時間をもらって、アコースティックライブを始めることもできました。これまで考えてきたことがあるので、それをまた思い切り届けたいと思います」

 来年も今年同様に激動の1年になる。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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