オジさんこそ読みやすい?今ドキの縦スクロール漫画

[ 2022年7月30日 10:00 ]

少年ジャンプ+で発表された「タテの国」(c)田中空/集英社
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 スマートフォンで漫画を読む人なら「縦スクロール漫画」が増えたと感じているのではないだろうか。縦スクロール漫画は、4コマ漫画のように同じ幅のコマを上から下に連ねた形式。スマホ画面上で親指を上方向に滑らすように読む。2000年代初め、韓国で広がり始めたとされるが、ここに来て日本でも一気に広まった印象だ。韓国発の「梨泰院クラス」がネットフリックスでドラマ化され、日本でも7月から「六本木クラス」(テレビ朝日)として放送されるなど、注目を集めている。

 日本の大手出版社も、縦スクロール漫画の専門部署を設けるなど、製作に本腰を入れ始めた。集英社の漫画アプリ「少年ジャンプ+」編集長で、同社の「タテマンガ編集委員」を務める細野修平氏は「縦スクロール漫画は、従来の漫画とはかなり違う。漫画とアニメの中間のようでもあり、極端に言えば1コマがずーっと続いているような感覚もある。相当しっかり研究しないとうまく行かないだろう」と話す。

 「ジャンプ+」でも、天空から下界へと伸びる“タテの国”を舞台とする冒険漫画「タテの国」(19~21年)など、縦スクロールの人気作がある。天の上から地の底まで落ちていくスピード感や、底知れぬ世界の広がりを、上から下に延々と続くコマ展開を存分に生かして描いた作品。細野氏は「(縦スクロールは)コマの概念、画面構成の概念が従来と違う」と指摘した。

 縦スクロール漫画は、上下方向にダイナミックな表現ができるのも魅力。一方でコマに大小の差をつけにくいなどの制限もある。表現技法の可能性について、細野氏は「作家さん次第でしょう。『縦漫画界の手塚治虫先生、鳥山明先生』のような存在が生まれたら一気に変わる」と期待している。

 縦スクロール漫画の主な読者層は、普段あまり漫画を読まない「ライト層」との分析もある。細野氏も「現時点では、割と気軽に読めるものが多いのではないか」と感じている。緻密な伏線や繊細な感情表現が織り込まれ、テーマも多様な従来の漫画に比べれば、電車移動などの“スキマ時間”に読める手軽さが魅力のようだ。細野氏も「現状は若い層に人気のようだ」とする一方で、中高年層に広がる可能性も指摘する。

 漫画誌や単行本の“紙の漫画”は、ページ上段のコマを右から左に進み、端まで読めば下段のコマを再び右から読むのが基本ルール。デジタル化の際は、この1ページをそのまま1画面とするのが普通で、必然的に1コマ1コマは小さくなる。これに対して、縦スクロール漫画は1コマが画面の左右いっぱいを使う大きさとなるため、老眼が気になり始めた読者の目にも優しい漫画となる。「表現方法により、需要のある読者層も変わる。年齢が上の層に読まれるものに変わっていく可能性もある」とした。

 デジタル漫画は、ここ10年で、紙の漫画の売上減を補うように急成長。漫画市場全体を引っ張る牽引車となっている。2019年には紙の市場を上回り、21年には全体の6割超にまでに拡大したとの調査もある。市場全体も、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要増も加わって、20年に約6126億円を記録。これまでのピークだった1995年の約5864億円を上回った。21年にはさらに拡大し、前年比10・3%増の6759億円にまで達している。

 雑誌連載と単行本化を基本に“横読み”のスタイルで発展してきた日本漫画。デジタル漫画も現状では横読みが多いが、今後はどうなっていくのか。細野編集長は「どちらか一方になっていくのでなく、お互いが影響し合っていくでしょう。両方が盛り上がっていく可能性もある」と、共存する未来を予想している。記者は、横スクロールも縦スクロールもするようなデジタル漫画が出てくることを期待している。

 ◇少年ジャンプ+(プラス)集英社が2014年9月にリリースした漫画誌アプリ、Webサイト。「SPY×FAMILY」「怪獣8号」など独自作品60~70本は、アプリダウンロード後初回は無料で、「ONE PIECE」など週刊少年ジャンプ(WJ)の作品も1話単位で有料で配信している。アプリの総ダウンロード数は2100万以上。週間アクティブユーザーはアプリとWebを合わせて約600万人。(記者コラム)

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2022年7月30日のニュース