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【コラム】海外通信員

超モダンなサッカー 久保裕也が選んだヘント

[ 2017年2月25日 07:30 ]

ヘントのハイン・ファン・ハーゼブルック監督
Photo By スポニチ

 「すごいボールポゼッションをするチームで、かなり僕的には魅力的なサッカーをしているなと」

 今年の1月26日、久保裕也がヘント入団会見の際に語っていたことだ。

 なぜ久保はベルギーのヘントを移籍先として選択したのか。もちろん理由は様々あるだろう。ただ、そのうちのひとつが、クラブを指揮している監督のサッカーが魅力的だったから、という点だ。すでにスイスのヤングボーイズでプレーしていた久保は、リーグやクラブのブランドではなく、クラブと監督がどういうサッカーをしているかを見て移籍先を決めたというわけだ。久保は、ヘントとハイン・ファン・ハーゼブルック監督を選んだ。

 ハイン・ファン・ハーゼブルック監督は、ここ数年、ベルギーのみならずヨーロッパ全体から急激に注目されるようになった監督だ。飛躍のきっかけは、2014〜2015シーズン、ヘントを率いてベルギーリーグで優勝したこと。ベルギーリーグはなんだかんだ言っても、アンデルレヒトとクラブ・ブルージュとスタンダール・リエージュという歴史ある名門3クラブが強い。近年はヘンクとヘントが台頭したが、名門3クラブ以外が優勝するのは難しいのだ。続く2015〜2016シーズンでもヘントはリーグ3位と健闘。加えてチャンピオンズリーグでも1次リーグを突破した。ベスト16でウォルフスブルグに敗れたものの、ヘントとファン・ハーゼブルック監督のサッカーがヨーロッパの舞台でも戦えることを証明してみせた。

 ファン・ハーゼブルック監督が注目された理由は、ただ成績を残したからだけではない。その戦術が個性的だったからでもある。

 その戦術の最大の特徴を大雑把に言うと、攻撃時は3−6−1で守備時は4−2−3−1と変化する可変式フォーメーションだ。

 攻撃時の3−6−1は、チェルシーのコンテ監督が採用している3バックとほぼ同じ形、やり方だ。3バックの前に2枚のボランチ、左右のウイングバック、前線が1トップ2シャドー。攻撃時にボールを失い、相手のカウンターに対処することになった場合は、3−6−1のまま、特に3バックとダブルボランチが対応する。

 さて相手が時間を掛けてビルドアップして攻撃をする段になると、ヘントは典型的な4−2−3−1の陣形を敷く。4バックのラインコントロールを含めたゾーン的な守り方へと移行することで、コンパクトなゾーンディフェンスを実現するわけだ。

 その3−6−1と4−2−3−1へと可変するシステムのキーマンの一人が、キャプテンであり左サイドバックの21番ナナ・アザーレだ。4バック時には左サイドバックだが、3バック時には彼が一列上がって左ウイングバックとして振る舞う。このアザーレの驚異的な戦術的柔軟性が、現在のヘントの戦術的面白さを支えている。アザーレが一列前に上がることで、4−2−3−1の時に左ウイングとトップ下に入っている選手がポジション的に右前方に押し出される感じになり、3−6−1の時に2シャドーとなる。

 反対にほとんど4−2−3−1の時と3−6−1の時でポジションと役割が変わらない選手が、(アザーレ以外の)バックラインの3人とダブルボランチの2人、センターフォワード1人の5人だ。この5人、とりわけボランチの2人がこの戦術の軸中の軸。チェルシーで言えば、カンテとマティッチに当たるポジションであり、非常に重要な役割を担うのだが、それ故にこのポジションの選手のクオリティがチームのクオリティに直結する。そんなボランチのひとりだったスベン・クムスが移籍していなくなったことが、今季のヘントが苦戦している理由のひとつなのだ。

 そう、今季のヘントは苦戦している。ピッチ上のサッカーも優勝した一昨シーズンや昨シーズンと比べると、今季は特にビルドアップ面が拙い。バックラインからボランチのあたりでつなぎのミスが頻出。後ろで繋げなくなり、センターフォワードやウイングの前のスペースにロングボールを蹴る、ということが多くなってしまっているのが現状ではある。

 それでも、ファン・ハーゼブルック監督はその持ち前の高度な戦術のサッカーを継続しようとしている。

 2月5日のズルテ・ワレヘム対ヘントの試合後、久保に尋ねると、「そういうタクティックの練習はかなりやっています。そういうポゼッションするチームだっていうのは間違いないと思いますけど。ただ、試合で出来ていないっていう。新しい選手が多いっていうのがあるのかもしれないです」。

 久保は加入直後から2戦連続ゴールを決めて久保自身は理想的なスタートを切ったものの、チームはその後、リーグ戦で勝利から遠ざかってしまい順位を上げることができないでいる。そうかと思えば2月16日にヨーロッパリーグの決勝トーナメント1回戦、第1レグのホームゲームでトットナムに1−0で勝利するという金星を挙げた。久保はヤングボーイズですでにヨーロッパリーグに出場していたために、この試合には出場できなかった。

 「すごく良いサッカーしていましたし、ああいうサッカーができるチームなんで」と、試合を観戦した久保。「多分、出ていた選手が前から今までずっと出ていた人たちだったと思う。なので、僕ら新しく入った選手がいかにこのチームにフィット出来るかだと思います。普段はみんな、あんなプレーをしたいんだと思う」

 実はベルギーリーグのレギュラーシーズンはすでに残り少なくなっている。プレーオフがあるからだ。優勝を決めるプレーオフ1に出場するためにヘントは上位6位までに入らないといけないのだが、苦しい状況だ。だが、もちろん、久保も諦めていない。2月19日のスタンダールとのアウェーゲームでは1−1の引き分けに終わった。だが、久保は「今日の試合は前節の試合に比べるとだいぶん手応えがあったので、もっと頑張って行きます。1週間でこれだけ変われるってことは、まだまだこれからです」と前を向く。

 久保を陣容に加えたファン・ハーゼブルック監督のサッカーが、再び超モダンなサッカーとして機能するようになるのか。ただ、残された時間は少ない。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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