失われたドラマ「蜃気楼博士」発掘 44年ぶり再放送

[ 2022年6月18日 09:00 ]

NHK少年ドラマシリーズ「蜃気楼博士」の井上昭文さん(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】1978年に放送されたNHK少年ドラマシリーズ「蜃気楼博士」全12話が、20日からNHK・BSプレミアム「プレミアムカフェ」で、44年ぶりに再放送される。

 少年ドラマシリーズは小中学生向けの番組として1972年にスタート。「タイム・トラベラー」を第1作とし、83年の「だから青春泣き虫甲子園」まで計99作が放送された。作品はSF、ホームドラマ、文芸ドラマ、海外ドラマなど多岐にわたり、のちに第一線で活躍することになる池上季実子、紺野美沙子、古手川祐子、多岐川裕美らの初々しい演技なども注目された。

 「蜃気楼博士」は作家・都筑道夫さんの小説を原作とするミステリー。かつて米国で奇術師「ドクター・ミラージュ」として活躍した男、超能力で人を殺せると主張する霊媒師、週刊誌記者らの物語で、2013年に亡くなった俳優の井上昭文さんらが出演した。

 実は、「蜃気楼博士」全12話の映像はNHKに残っていなかった。テレビ放送が始まった1953年から1970年代までは放送用ビデオテープが非常に高価で、番組の放送が終わると次の番組をテープに上書きするのが通例だったからだ。

 今回、再放送に至ったのは、2013年にスタートしたNHK番組発掘プロジェクトの成果。このプロジェクトは番組出演者や脚本家、視聴者などから家庭で録画した番組のビデオテープの提供を受けて保存・公開に取り組むもの。「蜃気楼博士」全12話は、週刊誌記者役で出演していた吉川淨氏から提供を受けた。

 このドラマを再放送する「プレミアムカフェ」の制作統括・柴田解氏は「プレミアムカフェは昔の番組を見て楽しんで頂く番組ですが、これまでにないものを取り上げたいと思っていました。番組発掘プロジェクトによって全話がそろったドラマを再放送するのは今回が初めてです。プロジェクトの担当者から『蜃気楼博士は内容が面白い』という話を聞いていたので、いつか全話を放送できたら、と考えていました」と説明する。

 大切に保管されていたテープとはいえ映像コンディションは良くなく、傷、揺れ、色合いなど、さまざまな処理が必要と判明。作業工程を5つに分け、5人の担当者が元の番組の味わいを損なわないよう、2カ月かけて丁寧に修復作業を行ったという。

 番組では、第1話から第4話までを20日午前9時から、第5話から第8話までを21日午前9時から、第9話から最終話までを22日午前9時から再放送する。

 メディア総局ドラマプロデューサーの吉永証氏は「44年前の少年向けドラマとは思えない面白さがあります。オープニングの不気味さ、ストーリー、設定、謎解きなど、大人がいま見ても十分に楽しめます。出演者のお芝居も、現在のナチュラルなものと少し違うけれど、それが独特の世界観を作り、作品に引き込む役割を果たしています。子供の時に見たら大人になってからも思い出す作品、多くの人の心に残る作品だと思います」と話す。

 柴田氏は「今回は初めての試みですが、視聴者のみなさんに楽しんで頂けるようなら、発掘された番組をまた再放送したいと思います」と語る。

 少年ドラマシリーズに関しては、「蜃気楼博士」以外にも、既に全話そろっている作品が複数あるという。

 難度が高そうだが、大河ドラマ「国盗り物語」(1973年)や連続人形劇「新八犬伝」(73年~75年)なども見たい。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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