【内田雅也の追球】不振脱出への“待ち方” 大山2打席連続四球が生んだ2打席連続安打

[ 2023年3月16日 08:00 ]

オープン戦   阪神2―0DeNA ( 2023年3月15日    横浜 )

<D・神>3回、大山は四球を選ぶ(撮影・大森 寛明)
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 阪神の4番・大山悠輔の復調はボール球の見送り方に見えていた。投球をしっかりと呼び込み、見極めたうえでバットを止めていた。

 それが結果となって現れたのが2打席連続、フルカウントからの四球である。DeNA・平良拳太郎に対し、1回表1死一、二塁では2球で2ストライクと追い込まれながら、際どい変化球をファウルし見極め、7球目で四球を選んだ。3回表2死二塁でも8球目で四球を得ていた。

 「ええ、それが復調の兆しだったと言えますね」と打撃コーチ・今岡真訪も認めた。前日14日もカウント0―2からを含め、2四球を得ていた。

 「ボールに入っていったうえで見送ることができていました」と今岡は話した。「あのように待てるのはタイミングが取れているということなんだと僕は思っています。本人はどう言うか分かりませんが。いくらボールが見えていてもタイミングが狂っていては手が出てしまいます」

 2打席続けての四球の後、2打席連続でライナーの安打を左前、右前と放った。打球に角度がつけば本塁打も近い。オープン戦9試合で打率・097と長かった不調から脱したと言える。

 「結局、バッティングはこの繰り返しです。いい時ばかりでなく、必ず悪い時がくる。その悪い時に自分の中でチェックするポイントを持って、いかに調子を取り戻していくかだと思います」

 その一つが投球の待ち方、結果としての四球と言える。<打ちたい気持ちを抑える>と古田敦也が『うまくいかないときの心理術』(PHP新書)に書いていた。<打たなきゃいけないと思った時ほど、フォアボールで出ようとする。打ちたい気持ちを我慢して時を待つ、という方法がスランプ脱出法なのです>。

 なるほど「時を待つ」か。「知の巨人」と呼ばれた評論家・小林秀雄が『スランプ』と題して書いている=『考えるヒント』(文春文庫)所収=。西鉄(現西武)、国鉄(現ヤクルト)で活躍した豊田泰光との酒席で<その道の上手にならなければスランプの真意は解(わか)らない>と知った。不調時はどうするのかと問うと「よく食って、よく眠って、ただ、待っているんだ」。

 やはり「待つ」のである。むろん工夫も努力もしたうえで「待つ」。どこか、ボールを「待つ」にも通じているようで興味深い。=敬称略=(編集委員)

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2023年3月16日のニュース