【鎌倉殿の13人 秘話3】保坂監督が語る小栗旬の神髄「咀嚼力」上総広常粛清&比企討ち後の義時の表情

[ 2022年12月13日 09:00 ]

「鎌倉殿の13人」最終週インタビュー(3)演出・保坂慶太監督

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第31話。兄・北条宗時の“遺言”が脳裏によみがえる北条義時(小栗旬)(C)NHK
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 脚本・三谷幸喜氏(61)と主演・小栗旬(39)がタッグを組み、視聴者に驚きをもたらし続けたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は今月18日、ついに最終回(第48回)を迎える。最終週インタビュー第3回は演出の保坂慶太監督。撮影の舞台裏や小栗の魅力を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。最終回は、江戸幕府まで続く強固な武家政権樹立を決定づけた義時と朝廷の決戦「承久の乱」が描かれる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河出演8作目にして初主演に挑んだ。

 保坂監督にとっては、第15回「足固めの儀式」(4月17日)と第31回「諦めの悪い男」(8月14日)の北条義時(小栗)の表情が最も印象に残る。

 “神回”の第15回は上総広常(佐藤浩市)が粛清された時。眼前の広常が梶原景時(中村獅童)に斬られ、御家人たちが源頼朝(大泉洋)に膝をつく中、義時は一人、立ったまま。最後は頼朝ににらまれ、屈した。この間、義時は一言も言葉を発しない。悲しみ、悔しさ、無力感が入り混じった涙を流した。

 「あの場面は、そもそも周りが頼朝にひれ伏すというイメージも最初はなかったんです。でも、皆に宣言するとなったら頼朝としてはまず中央に動く、と大泉さんからアイデアをもらいまして。で、そうなると皆は自然と膝をつく。その中で義時だけは微動だしなかったんです。最終的には屈するんですけど、いわば最後の抵抗をするというこの部分は、小栗さんのアイデアを頂きました。あの時の義時の表情は、今も脳裏に焼き付いています」

 第31回は比企能員(佐藤二朗)を討った後、義時は政子(小池栄子)に「(一幡は)今は、行方知れずということにしてあります」などと報告。鎌倉御所の廊下を歩くと、兄・北条宗時(片岡愛之助)の“遺言”がよみがえる。「小四郎、俺はこの坂東を、俺たちだけのものにしたいんだ。坂東武者の世をつくる。そして、そのてっぺんに北条が立つ」。義時は覚悟を決めたように、鬼の形相になった。廊下を歩く姿を捉えた引きの画が印象的だった。

 「台本には、義時が宗時の言葉を思い出して『(今がその時なのか)』というト書きがあったんです。『その時』って一体何なのか、と小栗さんから聞かれまして。ここは後半に向けて肝のシーンなので、チーフの吉田(照幸監督)と一緒に話し合いました。そこで吉田が言ったのが、ここまで『坂東武者の世をつくる』という理念で動いてきた義時に『そして、そのてっぺんに北条が立つ』という言葉までフラッシュバックされるのは、ここが初めてなんじゃないかと。小栗さんも『なるほど!』となって、あの表情が生まれました。映像的には撮影の戸田義久さんの案を丸々もらいまして。内輪の話にはなるんですけど、素晴らしかったと言ってもらえるシーンは大体僕ではない誰かしらのアイデアのおかげで形になっているんです。記録の小林澄枝さん、編集の松屋周平さん、撮影の神田創さん、照明の…結局全員になっちゃうんですけど(笑)。ドラマ作りは『総合力』で勝負するものだなぁとあらためて感じています」

 上記2シーンに限らず、小栗の凄さは「咀嚼力」。ドラマ前半は見事な“受けの芝居”。後半は米の勘定が向いていたはずの伊豆の小豪族の次男坊から“漆黒の執権”への変化を、まざまざと体現した。

 「小栗さんとは本当にたくさんディスカッションさせてもらったんですけど、僕の説明が言葉足らずでも真意を汲み取ってくださって、実際に表現に落とし込んでくださる。『咀嚼力』と言えばいいんですかね?理解しただけではダメで、身体表現に落とすというところが凄くて。引き出しがとにかく多いんです。あと、自分のプランニングもありながら、それでいて周りに合わせていく柔軟性、相手のお芝居に反応する瞬発力も持っている。そのためには相当な準備が必要なはずなんですよね。現場では常に余裕があるように見えたんですけど、それって、あれだけキャリアのある人でも決して簡単なことではないと思うんです。僕たちの知らないところで、それだけ陰の努力をされているんだと思います。だから、周りに気を配れるし、自分のプランニングも臨機応変に変えられる。準備するのは当たり前、とご本人は言う気もしますが、小栗さんが凄いのは、その準備と咀嚼力にあると僕は思います」

 =最終週インタビュー(4)に続く=

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