藤野涼子 NHKドラマで歌人・河野裕子さん役 「生のお芝居ができた」

[ 2022年6月1日 08:30 ]

ドラマ「あの胸が岬のように遠かった」の一場面。路上で永田和宏(柄本佑)とダンスを踊る河野裕子(藤野涼子)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】女優の藤野涼子(22)がNHK・BSプレミアムのドラマ「あの胸が岬のように遠かった~河野裕子と生きた青春~」(6日後9・00)で、2010年に亡くなった歌人・河野裕子さん(享年64)を演じた。

 河野さんは戦後の短歌の第一人者で、夫で歌人の永田和宏氏(75)とともに宮中歌会始の選者を務めた。代表作として「たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか」「ブラウスの中まで明るき初夏の日にけぶれるごときわが乳房あり」などがある。

 ドラマは永田氏の手記を基にしたラブストーリー。永田氏が出演するドキュメンタリーを交え、永田氏と河野さんの出会いから結婚までを、純朴かつ繊細に描く。

 藤野は「河野さんは人に対しても、自分の気持ちに対しても素直で、思っていることを相手にちゃんと伝えられる方です。最初は永田さんとは別に好きな人がいることを隠そうとしているけれど、自分の中で制御できなくなって、気持ちがあふれ出します」と話す。

 永田氏を演じたのは俳優の柄本佑(35)。多感な河野さんの思いを受け止めながら時に自らの激情を吐露する芝居が秀逸だ。

 藤野は「柄本さんと生のお芝居ができました。私は最初、自分の中で河野裕子さんを作ってしまうところがありましたが、柄本さんのおかげで、回数を重ねるうちに、自分が今したいことをして良いのだと思えるようになりました。河野さんと私自身が混ざり合って、例えば、永田さんとダンスを踊るシーンなどは、河野さんとしても楽しかったし、私としても楽しかったです」と明かす。

 物語の後半に、河野さんが永田氏から母親に関する告白を聞く場面がある。3歳の時に母親を亡くし、母親の顔を覚えていないという永田氏の話に、河野さんは感情を抑え切れず、大粒の涙を零す。藤野の静かで深い芝居が胸に刺さる。

 藤野は「あのシーンは3回ほど撮らせてもらいました。台本に『泣く』と書かれていて、泣かなければいけないという気持ちがありましたが、1回目はあまり泣けなくて、ちょっと悔しかったので、『もう1回やらせてください』とお願いしました。2回目、3回目は泣くことを意識せずに、永田さんの話を聞くことに集中しところ、自然に涙があふれ出て来ました」と話す。

 それは、藤野が河野さんと一体化した瞬間だった。

 2015年の映画「ソロモンの偽証」に主演して女優デビュー。18年の映画「輪違屋糸里 京女たちの幕末」主演や、21年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公の妹役などで芝居に磨きをかけてきた。河野さんを演じ切った今作は、さらなる飛躍への足がかりになるだろう。

 「撮影現場で、生で体感することの大切さを改めて感じました。事前にちゃんと準備して行かなければいけないけれど、現場ではそれを白紙に戻して、藤野涼子としてちゃんと反応しなくてはいけない部分があります。それこそ、河野さんのように、人に対しても、自分の気持ちに対しても、素直に反応していくことが大事だと思いました」

 このドラマには、河野さんだけではなく、藤野自身の魅力もたっぷり詰まっている。 河野さんのみずみずしい短歌の数々を、情感たっぷりに詠む場面も、見どころ、聞きどころのひとつだ。

 「永田さんと河野さんをご存じの方には、お2人の謎解きになるでしょうし、ご存じではない方にも、お2人の魅力を感じていただけると思います。私たちの青春を楽しんでいただけたら、うれしいです」

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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