河瀬直美総監督 映画「東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B」への思い

[ 2022年6月1日 05:30 ]

河瀬総監督がポスターを手に映画をアピール
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 河瀬直美氏(53)が総監督を務めた東京五輪の公式記録映画「東京2020オリンピック SIDE:A」(東宝配給)がいよいよ3日に公開される。2部作で「SIDE:A」は選手を軸に描き、「SIDE:B」(24日公開)はスタッフやボランティアにスポットを当てる。アスリートと非アスリート、組織と個人、異なる視点が描き出す2つのドキュメンタリー。河瀬総監督に作品への思いを聞いた。

 東京五輪は新型コロナウイルスの影響で史上初の1年延期、無観客開催という異例のものとなった。揺れる選手たちの心情を描いた「SIDE:A」は先日、第75回カンヌ国際映画祭で一般公開に先立って上映され、大好評だった。国内での公開を前に河瀬総監督は「感無量です。昨年8月8日に閉会式があり、そこから編集のヤマがとても高かった。ようやく皆さんに見ていただける」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 「SIDE:A」では難民選手団やジェンダー問題にもスポットを当てた。冒頭からシリア難民の兄弟選手が登場することに「さまざまな国のアスリートがコロナで本当に苦労してやっとたどり着けた姿。その人生を通して描くことができてよかった」と語った。編集作業中、ロシアのウクライナ侵攻が始まったことにも触れ「五輪は平和の祭典であることは確かなのに、コロナは人間を試している。それでも選手は私たちに感動を与えてくれた。金メダルだけではなく、負けても財産を残してくれた選手に焦点を当てた」と説明した。

 閉幕から約1年後の公開、そして公式記録映画としての意義について「勝ち負けだけなら大会期間中に報道できちんと伝えてくれる。だから、これは100年後にも届くような映画でないといけないと思った。その観点は守ってきた」と語った。

 2部作とした理由は「伝えたいことが多かった」から。「全部を入れられないことはこれまでの経験で分かっているが、アスリートを中心にした五輪に入らない部分にも残さなければいけないものがいっぱいあった。組織委員会、IOCにお願いして2つにさせてくれないかということにした」と振り返った。

 「SIDE:A」にはカナダのバスケットボール代表のママさん選手が登場する。コロナ下でも夫と子供が来日。試合の合間を縫って母乳を与えるシーンが印象的だ。「選手は妊娠すると元の場所に戻ることが難しい状況だったりする。今の時代に、授乳する私とオリンピアンとしての私、両方の自分を持ってもいいのではないかとアピールするカナダの選手に勇気をもらった」という。そして河瀬総監督自身、高校までバスケットボールに打ち込んだだけに、日本女子の銀メダルを目の当たりにして「ホーバス監督が言うように金メダルが獲れたんじゃないかって思う。パリは狙うと思います」と喜んだ。

 また、日本伝統の柔道、実施と見送りを繰り返すソフトボール、初採用された空手、サーフィン、スケートボードなど特徴のある種目が印象に残る。事前合宿から密着したソフトボール金メダルの上野由岐子は「こうして形として残してもらえてうれしい。映画を通して私たちの思いをたくさんの方に知ってもらいたい」と感慨深げに語った。

 さらに、社会問題に声を上げる米女子ハンマー投げの選手らも登場。河瀬総監督は「ジェンダーのイコーリティー(平等、対等)も今回の五輪で、大きな転換期を迎えたのかな」と説明した。

 「SIDE:B」(今月24日公開)はスタッフやボランティア、組織委員会の森喜朗会長(当時)の辞任など舞台裏に踏み込んだ。「人間模様が描かれる。いいも悪いも結果として出る」。こちらは公開ギリギリまで編集作業を続けるというので楽しみだ。

 750日、5000時間という膨大な記録から厳選してつくった2部作。「スポーツだけではなく人間模様がたくさん描かれていて、AとBは双子のような作品。Aに出てきた人がBにも出てきて、ああ、こういう所にいたんだなという発見もある。物事の表と裏、反対側から見た時に私は何を感じるのかということも含め、楽しんでいただけたら」と笑顔でアピールした。

 《藤井風がメインテーマ曲担当》映画のメインテーマ曲は歌手の藤井風(24)が担当した。「The sun and the moon」と題した曲について、藤井は「2020年にデビューして、そしてその年に予定されていた東京オリンピック記録映画の音楽を担当させていただくという大変光栄なお話をいただきました。映像に音楽を添える、映像にインスパイアされた音楽を作る経験は初めてでしたが、河瀬直美監督の美しく繊細な描写は本当にたくさんのインスピレーションを授けてくださいました」と感謝した。

 そして「このドキュメンタリーで監督が描かれている光と影、そして人生の勝利とは何かという問いに導かれるように姿を現してくれたのが、メインテーマの「The sun and the moon」という曲になります。このドキュメンタリーを目にする方々、そしてこの記録映画がとらえた時代の歩む先が、光の方でありますように」とコメントした。

 河瀬総監督は「藤井風という強く優しいきらめきが、今回のオリンピック映画のひとつの灯火(ともしび)になるはずだと確信して、一緒にこの作品を創ってもらえないかとお話ししました」と振り返った。

 【作品紹介】2021年夏、日本人はいったい何を経験したのか――。コロナ禍、延期、さまざまな問題、そして迎えた1年遅れの開催。750日、5000時間の膨大な記録が映し出していたものはフィールド上、競技場の内外、至るところに満ちあふれていた情熱と苦悩。その全てを余すことなく後世に伝えるために、河瀬総監督が紡ぎ出す「東京2020オリンピック」の二つの事実。コロナで見えづらくなった“つながり”を可視化し「オリンピックの在り方」と「日本の現在地」を突き付ける。今後、オリンピックが進むべき道は?本当のニューノーマルとは?二つの側面から「東京2020オリンピック」の「真実」が見えてくる。

 2部作の1作目となる「SIDE:A」はアスリート側の視点から描く「選手の物語」となる。表舞台に立つアスリートを中心とした関係者たちにもスポットを当て、秘めた思いと情熱、そして苦悩を映し出す。続く「SIDE:B」はアスリートを支える側の視点で描く「コロナ禍の社会情勢や関係者の物語」。ボランティアや医療従事者ら非アスリートの奮闘。無観客での実施という異例の大会を縁の下で支えた彼らにフォーカスする。

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