斬新な「東大怪談」 著者の豊島圭介氏「壮絶な人生を抱えた人たちの物語」

[ 2022年3月29日 07:21 ]

新刊「東大怪談」の著者・豊島圭介氏
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 【牧 元一の孤人焦点】怪談は、話の内容もさることながら、誰が語るかが重要だ。信頼の置ける人が語れば、信じる気持ちが強くなるし、うさんくさい人が語れば、疑う気持ちが強くなる。疑いを持って聞く怪談は、全く怖くないし、面白くない。

 新たに世に出た「東大怪談」(サイゾー)は、斬新な切り口を持った怪談本だ。著者は、東大教養学部出身で、映画監督として「三島由紀夫VS東大全共闘~50年目の真実~」などを手掛けた豊島圭介氏。自ら取材し、東大出身者計11人が体験した怖い話(怪談、都市伝説、パラレルワールド、UFO、宇宙人、ヒトコワ、精神疾患など)を記している。

 豊島氏は「どんな怪談にも、語る人それぞれの人生がある。東大出身者には『賢い人』『エリート』『コミュニケーションを取りづらい人』などのイメージがあるが、そのイメージを軽く上回るような、業の深い人生を送っている人たちに数多く出会えた。怪談本として、心霊現象、オカルト現象も満載だが、東大出身者の人間カタログのようにもなっている。怪談が好きではない人にも『こんな人たちが東大に行ったのか!?』と楽しんでもらえると思う」と話す。

 例えば、2003年に東大に入学した30代男性の体験談。この男性は中学生の頃、義父から家庭内暴力を受けていたことを明かした上で、当時、家の近くの林道で「牛人間」(顔が牛で、首から下が人間)を目撃したと話している。牛人間の存在は一般的観点からすればにわかに信じがたいが、豊島氏の取材に対し、東大出身の男性が真摯に語っているところがとても興味深い。

 豊島氏は「東大出身者は自分の体験に確信を持ちやすいという気がした。能力が優れている自分が見たものに間違いはないというスタンスだ。取材の時、たまたま僕が東大出身なので、『君も東大か…』という感じだったが、そうでなかったら、もっと偉そうな感じを、彼らから受けていたと思う。そういう意味では、この本にあるのは、自分が経験したことは絶対に正しいと思っている人たちの怪談、自我、自意識が強い人たちの怪談と言える。それと同時に、壮絶な人生を抱えた人たちの物語でもある」と話す。

 この本の末尾には、東大出身者から新たな体験を募る告知が掲載されている。

 豊島氏は「続編を書きたい。怪談はコミュニケーションツールと言われるが、人の人生を聞くためのツールとしても機能する気がする。我こそはという怪異現象の体験者でもいいし、壮絶な人生を歩んできた人でもいい。生粋のうそつきにも会ってみたい」と話す。

 怖い話もさることながら、人間の面白さを浮き彫りにした「東大怪談」。続編とともに、地域を西に広げた「京大怪談」も読んでみたい。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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