【内田雅也の追球】難しい「ノースリー」の心 大山の積極性はいいが「好球必打」を思う

[ 2023年3月12日 08:00 ]

オープン戦   阪神4―5日本ハム ( 2023年3月11日    甲子園 )

<神・日>6回、遊撃ゴロ併殺打ニ倒れる大山(撮影・成瀬 徹)
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 2日続けてノースリー論を書く。打者にとって3ボール―0ストライクという絶対有利のカウントでの心の持って行き方は難しい。言葉にすれば、集中力、無心、平常心……といった心を前日に書いた。

 これを読んだ阪神ヘッドコーチ・平田勝男は「虚心坦懐(たんかい)か」と言った。「先入観を持たず、広く平らな心。また、そうした心で物事に臨む態度」と辞書にある。どうだろう。

 この日、大山悠輔はノースリーから2度、打ちに出た。1回裏2死三塁では空振りで後に四球。1点を追う6回裏1死一、三塁では遊ゴロ併殺打に倒れ、甲子園にファンのため息が広がった。

 サインは「打て」だった。こうした時の「打て」は「打って良し」の意味で、待ってもいい。大山も百も承知である。

 「どうやろう」と監督・岡田彰布は首をかしげた。2月23日付でも書いたが「『打て』はゲッツーも含めての『打て』」と結果の併殺打は受け入れている。外角低めの難しい球を打ちに出た姿勢を疑問視していた。

 言い古された「好球必打」を思う。思い切りや積極性はいいが「好い球を思い切り」という二段構えの考え方がいる。

 「オレは心まで読めんもん。どういう心境って言うか…。ボールスリーになったら何でも振りにいくか。それはもう(胸を指して)ここしかないやんか。ここでな」

 やはり心の問題なのだ。そして岡田は現役当時を思い返し「オレは『打て』言うてもノースリーからはよう打たんかったわ。怖い…」と漏らした。そう、怖かったのだ。それほど阪神の主砲の重圧はある。この日も場内に広がった、ため息を吹き飛ばす気概がいる。

 さらに「オレはワンスリー(3―1)も一緒と思うんよな」と話した。前日書いたように、3―0では力みが勝り、3―1の方が冷静でいられるというハンク・アーロンと同じ姿勢である。

 ちなみに、大山は昨季、3―0から8打数4安打2本塁打、11四球だった。一発も殊勲打もあった。4番の重圧や凡退の恐怖と闘ってきた。

 今は不調の大山だが、3回裏には実戦6試合21打席ぶりの安打となる左翼線二塁打を放った。岡田の前での特打や室内での特打も行ってきた。

 「思い切り」は大山の持ち味でもある。1回裏の空振りは豪快で、いいスイングだったと記しておきたい。=敬称略=(編集委員)

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2023年3月12日のニュース