去就注目のヤンキース・ジャッジ 重なるのはあの「ニューヨークの顔」

[ 2022年10月30日 14:13 ]

ヤンキースのジャッジ(AP)
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 今季終盤、私にとって地元チームであるヤンキースの選手だったこともあって、アーロン・ジャッジの本塁打記録への挑戦を間近で見ることができた。ヤンキースの多くの遠征にも同行した。おかげで日本人記者としては唯一、ベーブ・ルースの最多記録に並ぶ60号、ロジャー・マリスのア・リーグ記録に並ぶ61号、そしてリーグ新記録の62号を全て現場で見るという幸運に恵まれた。

 その過程で印象的だったのは、米国でも大きな話題になった今回の記録挑戦は多くの人に期待され、祝福されたものの、ジャッジ本人はどこか居心地悪そうに見えたことだった。今月4日、テキサスでの試合でついに62号を打った時もそれは同じ。会見では喜びを語りつつも、60、61号を打った際と同様、「数字ではなく、自分のゲームをプレーすることに集中しようとした」と繰り返した。

 伝わってきたのは心底からの歓喜よりも、周囲の期待を裏切らなかったという安堵(あんど)感。自分にばかり脚光が当たる日々は決して快適なものではなかったのだろう。そんな姿を見ていて、選手としてのタイプこそ大きく異なるものの、とにかくフォア・ザ・チームに徹底し、自分自身や個人記録に執着することを好まなかった「ザ・キャプテン」ことデレク・ジーターの姿を思い出させられた。

 メジャー屈指のスーパースターとして確立したジャッジだが、ここまで常に順風満帆だったわけではない。2016年、メジャー昇格後直後は84打数42三振という信じられないほどの扇風機状態。特筆すべきは、メジャーリーガーとしての将来性が疑われていたその当時と、超がつくスター選手になった今でも周囲への接し方や態度や口調がまったく変わらないことだ。勝っても、負けても、黙々と全力プレーを続ける。メディアにも愛想はいいものの、トラブルを避けるためか、どちらかと言えば凡庸な答えを返す姿は本当にジーターそっくり。根底には格調高さと気品があるために、大先輩同様、誰からもリスペクトされ、愛される。

 62号を打ったテキサスの試合後も記憶に残るシーンがあった。フィールドで複数のテレビインタビューを終えたジャッジ。クラブハウスに通じるドアが開かれると、そこで一旦足を止め、まずは背後にいた両親、妻、エージェントとその家族を先に通し、一番最後に自ら扉を閉める気遣いも見せた。そんな選手が、今オフにFA権を得た後、来季以降はどこでプレーするかが余計に興味深くもなる。このままニューヨークに残るのか。それとも故郷のカリフォルニアか、あるいは他の街のチームに移るのか。

 プレーオフで敗れた後、他の日本人記者と一緒にあいさつと握手を交わした際には、移籍を半ば覚悟しているように見えた。しかし、個人的にはそれが気のせいであると願いたい。ジーターがそうであったのと同じように、「ニューヨークの顔」をこれほど安心して任せられる選手は他になかなかいない。そのキャリアの推移を間近で眺められることは、周囲の私たちにとっても喜びだからだ。(杉浦大介通信員)

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2022年10月30日のニュース