令和の“山田太郎”高松商・浅野 始まった「怪物伝説」

[ 2022年8月12日 04:08 ]

第104回全国高校野球選手権第6日・2回戦   高松商 14―4佐久長聖 ( 2022年8月11日    甲子園 )

<佐久長聖・高松商>7回、2打席連続本塁打を放つ高松商・浅野(撮影・成瀬 徹)
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 【秋村誠人の聖地誠論】伝説の誕生に形式などいらない。それは衝撃から生まれる。スタンドが大きくどよめく。ビジョンに浮かぶ「故意四球」の文字。しばらくして申告が伝達ミスによる間違いだと分かっても、その作戦に納得する自分がいた。名門・高松商(香川)の1番を打つ浅野翔吾(3年)。この打者とは、まともに勝負できない。そんな佐久長聖(長野)の考えが伝わってきた。

 それは2打席連続アーチを放って迎えた8回の打席だった。場面は1死一、二塁。塁が詰まっているのに、歩かせれば満塁とピンチが広がるのに「故意四球」が申告された。浅野は一塁へ。驚きと興奮と、不思議な雰囲気が甲子園を包んだ。

 こんなシーンを見た記憶がある。いや、正確には“読んだ”記憶だ。水島新司氏の人気野球漫画「ドカベン」で、同じような場面が登場する。夏の甲子園準々決勝で、明訓(神奈川)の主砲・山田太郎は1点を追う8回の満塁の場面で何と敬遠されるのだ。好投していた江川学院(栃木)の左腕・中(あたる)二美夫は、同点の押し出し四球となるのが分かっていながら敬遠。山田太郎の怪物ぶりを強調する一シーンでもあるが、それが浅野とダブって見えた。

 山田太郎は左打者で4番。浅野はスイッチヒッターで1番という相違点はあるけど、その強打ぶりは「怪物」と呼ぶのにふさわしい。何よりも、浅野の性格について聞かれた高松商・長尾健司監督は「♪気は優しくて力持ち~」と歌って「山田太郎みたいな子」と表現してくれた。歌ってくれたのはテーマ曲「がんばれドカベン」の歌詞の中に出てくるフレーズだ。

 かつて1番打者と言えば俊足巧打。それが近年は強打者もいる。記憶に新しいところでは08年夏の大阪桐蔭・浅村栄斗(現楽天)だ。「1番・遊撃」で金沢(石川)との2回戦では2本塁打など優勝に貢献。強打の1番打者にけん引されて日本一になった大阪桐蔭のような勢いも、今の高松商は感じさせてくれる。

 熱い夏。甲子園の空には雲が湧き立つ。「最強1番打者」の「怪物伝説」は、確かに始まった。(専門委員)

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2022年8月12日のニュース