七人の侍が見た激動の平成オリックス
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令和が始まり、1カ月が経った。その歴史的な改元初日の5月1日を、感慨深く迎えた女性がオリックスにいる。球団職員の坂田恵子さん。現在、事業推進部チケットグループ課長を務めており、球場内の席種や値段設定、またはシーズンチケットの販売など、チケッティングに関する部署で仕事をしている。
「30年後の5月1日が、そういう日になったんだな、と思いましたね」
30年前の1989年、つまり平成元年の5月1日、坂田さんはオリックス球団に入社した。今回、勤続30周年を迎えたわけだが、入社の経緯が当時話題になった。阪急から球団譲渡されたオリックスが職員の公募を実施。球団幹部、一般職員合わせて7人を採用し、その1人が坂田さんだった。当時のスポーツニッポンでも1面で報道しており、「もう古くなっちゃいましたけど」と新聞を持参してくれた。まだ、職員公募は画期的だった時代に第1号として入社。人生も大きく変わった。
「当時、公募自体がすごく話題になって、いっぱい問い合わせが来て、球団事務所がてんてこ舞いになっているという新聞記事を読んだのが、きっかけなんです。プロ野球の球団が職員を募集するという前例を聞いたことがなかったし、私も考えたこともなかったですが、記事を見て、履歴書を送ったんですよ」
絵画の販売会社や、会計事務所で税理士の勉強などをしていた経歴が目に留まり、オリックスでは経理の採用枠に合格。入社してすぐに訪れた本拠地の西宮スタジアムに感激し、「ここがホームグラウンドで、私もこのチームに入るんだ」と胸を躍らせたことが、昨日のことのように思い出すという。しかし、そんな感傷的な日々は、間もなく終わり。初年度から激動のシーズンが幕を開けた。
オリックス元年。結果から言うと、チームは優勝を逃すわけだが、歴史的大混戦だった。2014年に勝率2厘差でソフトバンクに敗れたのが記憶に新しいが、1989年は1位の近鉄と2位のオリックスが勝率わずかに1厘差。ちなみに3位の西武とも1厘差。2厘差の中に3チームがひしめき合った。
「1厘差で優勝できないのが、本当にショックで。日本シリーズの準備などもしますからね。私は経理なので、そこまで苦労したことはないけど、周りでチケットの準備した人は、泣きながらシュレッターしたとか、聞きました」
初年度だから、職員の気合もやはり違う。球団運営は不慣れな部分も多かったというが、坂田さんの記憶にも鮮明に残っるシーズンとなった。一方で、出会いもあった。当時、担当していた経理では、新人選手の入団時に給料、税金、保険などの説明をしており、1月には全選手、その家族などと面談。その中には、1992年入団のイチローもいた。「高卒でしたからね。かわいかったですよ。学生服着てきて」。その記憶もなぜか鮮明に残っているという。「イチローさんが、あとで成績を残したから印象に残ったのか、それとも最初に残っていたのか今は分からないけど、印象に残っています。おとなしい子でしたね」。高卒選手は総じておとなしいものだが、イチローからは話に聞き入っている印象が伝わってきたようだ。他選手とは違う雰囲気。異質的なものが当時からあったのかもしれない。
実は坂田さんは、今年3月のマリナーズの東京ドームでの開幕試合を観戦していた。イチローの引退のことはもちろん知らずに初戦を観戦し、翌日の引退会見は、イチローが会見を開いた同じホテルの一室で、テレビで見ていた。「入団時に無口でおとなしいと感じた鈴木一朗さんが、あのように立派に自分の言葉で思いを伝えて。あの時の少年が、努力を続けてこれほどに成長してきた年月の積み重ねを思い、とても感動しました」。縁があったのかもしれない。最後の勇姿を目の当たりにして、幸せを感じた。
そして1993年に球団本部に異動すると、1995年には阪神淡路大震災を被災。交通機関もストップする中、何とか総合運動公園内にあった球団事務所までたどり着き、選手や家族の安否確認におわれた。携帯電話がまだ広く普及されていない時代で、家の電話に一人ずつ連絡。そして選手が2月のキャンプに向かうと、合宿所「青濤館」に泊まり込み、事務所へ往復した。そんな不安にさいなまれた日々に、希望をともしたのが実は仰木監督だという。
3月に行われた激励パーティーで、同監督は「優勝します」とあいさつした。「ビックリしましたね。『優勝を目指します』はみんな言いますが、『優勝します』は聞いたことない。振り返ると、本当に優勝した、となって」。その熱意がファンにも伝わり、一部電車が不通の中でもファンが球場に詰めかけた。球団も「がんばろうKOBE」のスローガンの下、一致団結。本当に激動の一年だった。
さらに異動先で迎えたのは近鉄との球団合併。当時の職員は、現在の働き方改革では想像も付かないほどの激務を強いられた。チケットの管理に携わっていた坂田さんも同様。大阪、神戸と2球場分を管理するとなると、当然、倍の労働量になる。さらに球団合併により巻き起こった選手会のストライキ…。チケットの払い戻し作業など悪戦苦闘したことも、今では良い思い出の一部になっている。全ては、野球が、オリックスが好きだから。
「たまたま合格できて、大好きな仕事をして30年も経って、ビックリしている感じですね。入社したときは30年も務めるなんて考えていなかった。好きな世界にいさせてもらって、幸せだなと感じます」
そんな坂田さんも、定年退職の日が近づいてきている。1996年以来の優勝を果たし、最後に「幸せ」をもう1つプレゼントできるのか。侍のご奉公に、何とか報いてほしいと思う。 (オリックス担当 鶴崎唯史)
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