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【コラム】海外通信員

退団会見を拒否 ロナウド、レアルへの不満

[ 2018年7月30日 20:00 ]

レアル・マドリードをチャンピオンズリーグ3連覇へ導いたロナウド
Photo By AP

 アナウンス「7番は、クリスティアーノ……」

 観客「ロナウド!」

 アナウンス「クリスティアーノ……」

 観客「ロナウド!」

 レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウの試合直前のチーム紹介アナウンスで、最後の選手として紹介されてきたC・ロナウドだが、この掛け合いが行われることはもうなくなってしまった。7月10日、C・ロナウドのレアル退団及びユベントス移籍が、ついに決定した。チャンピオンズリーグを4回制覇するなどして、アルフレド・ディ・ステファノに続くレアル史上最大級のスター選手となった彼は、スペインの首都からその姿を消している。

 飽くなき野心でもって常勝を続け、だからこそ尊大でもある……。レアルとC・ロナウドは似た者同士だった。それは収めてきた成果が示す通りに最高の組み合わせでもあったが、しかしクラブのエゴと選手のエゴの激しい衝突も回避することはできなかった。

 リオネル・メッシやネイマールに劣る年俸、脱税で告発された際にレアルの支えが不十分だったこと、自身が受賞したバロンドール授賞式で会長フロレンティーノ・ペレスが「ネイマールがもしバロンドールを勝ち取りたいなら、うちに来ればいい」と発言したこと……。C・ロナウドが抱えていた不満は多岐にわたる。が、すべては「自分は愛されていない」との言葉に集約できる。

 C・ロナウドはこれまでも、レアルに対して不満を抱えたときに退団をほのめかしてきたが、クラブはそれを解消するように努めてきた。だが今年で33歳と、キャリアの下り坂に入るであろう年齢に差し掛かったことを受けて、ついに退団の扉を開いている。ポルトガル代表FWは昨季も44試合44得点と1試合1得点以上のペースを貫いたものの、重要性の低いアウェーゲームでは遠征メンバーから外れるなど休み休みプレーするようになった。レアルはそんな彼を見限っている。

 今年1月、C・ロナウドは前述したいくつもの不満によって退団をほのめかし、契約解除金10億ユーロ以下の額で退団を容認するようレアルに要求した。するとレアルはこれまでのように慰留することなく、移籍金1億ユーロで退団を認める意向を伝えた。これを受けたC・ロナウドは自ら退団をほのめかしたにもかかわらず、レアルがそれを認め、しかも1億ユーロという“安価”な値段を付けたことで出て行く意思を固めた。「1億ユーロで売るというなら僕を愛していないのだ」と。

 ポルトガル代表がワールドカップで敗退した後には、トントン拍子で移籍話が進んでいった。C・ロナウドがユベントスのオファーにすぐさまイエスと答えると、彼の代理人ジョルジュ・メンデスはレアルと話し合いの場を持ち、ユベントスに移籍金1億ユーロのオファーを提示させることを約束。レアル側はその際、退団を望んだのがクラブではなく、あくまでC・ロナウド本人であったことを強調する声明発表を選手側に求めたが、ポルトガル代表FWはその条件をすんなりと呑んでいる。そして7月10日、満を持してC・ロナウドのユベントス移籍が発表され、C・ロナウドの声明も公開された。そこには「自分の人生の新たな日々を始めるときがやって来た。自分がクラブに移籍を認めるよう頼んだんだ」と、レアルが要求した通りの言葉が記されていた。

 ラウールやカシージャスら、レアルはこれまでもクラブを象徴する選手とうまく別れることができなかったが、C・ロナウドも同じ道をたどった。しかし厳密に言えばC・ロナウドは、退団会見を開いた彼らともまた事情が異なる。レアルはその功績を称えるべく、退団セレモニーを開くことも提案したが、彼をそれを拒否して自ら裏口から出て行くことを選択した。レアルサイドから公開された声明ではうかがい知ることのできなかった、その憤りを表現するように……。

 こうして、強大さも華々しさもエゴもレアルそのものだった選手は、レアルと別れを告げた。同クラブで過ごした合計9シーズンの成績は438試合451得点。1試合あたりの平均得点数は、1.029得点という計算になる。レアルは1−0から試合を始められる保証だった選手を失い、攻撃におけるヒエラルキーを10年ぶりに変化させる必要に迫られる。時代は、変わるのだ。

 アナウンス「ゴールを決めたのは、クリスティアーノ……」

 観客「ロナウド!」

 アナウンス「クリスティアーノ……」

 観客「ロナウド!」

 今季より、ベルナベウのスピーカーとスタンドが、クリスティアーノ・ロナウドの名を叫ぶことはなくなった。当たり前になり過ぎていた選手紹介、ゴールの掛け合いがなくなることに、空虚感を覚えるのは致し方がないことだろう。いずれにしてもC・ロナウドは、チャンピオンズカップ3連覇の達成でレアルを欧州、ひいては世界最高のクラブとしたディ・ステファノ級の伝説として、記録にも、記憶にも残っていくことになる。

 スペインの首都にあるレアルの公式ショップからは、あの筋肉隆々の男の姿は消え去った。しかし、この町のいたるところにある広場では、ロナウドと背番号7がプリントされたユニフォームを身につける少年たちが、張り切ってボールを蹴り続けている。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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