寅さん、コロナはつらいよ…東京・柴又の老舗料亭231年の歴史に幕、倍賞千恵子「寂しく残念」

[ 2021年1月31日 06:00 ]

8代目店主の天宮一輝さん(撮影・岩田 浩史)
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 映画「男はつらいよ」にも登場した東京都葛飾区柴又の料亭「川甚」が31日の営業を最後に閉店する。創業231年の名店で柴又のシンボルとして親しまれたが、新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化。寅さんの妹さくらを演じた倍賞千恵子(79)は「寂しい」と思い出深い店の幕引きを惜しんだ。

 川甚は映画「男はつらいよ」第1作で、さくらが前田吟(76)演じる博と結婚披露宴を開いた場として登場。倍賞は「玄関のたたずまいが好きでした。劇中で仲人役のタコ社長(故太宰久雄さん)が遅れて駆け込んできた場面を思い出します。閉店は寂しく残念」と名残を惜しんだ。8代目店主の天宮一輝さん(69)は「そんなふうに思っていただき、ありがたいですが仕方ない」と残念そうに語った。

 1790年(寛政2年)創業。ウナギや鯉などを扱う川魚料亭で、夏目漱石や松本清張ら文豪にも愛された名店だ。天宮さんによると「多い日は700人以上のお客さんが来た」というが、コロナ禍で観光客も、冠婚葬祭などで利用する地元の人も激減。例年なら忘年会などでにぎわう12月も、売り上げは約2割に落ち込んだ。

 経費を切り詰め、助成金制度の活用など、あらゆる手段を考えたが経営が好転する見通しは立たなかった。閉店を決め、先月22日に従業員約20人に説明した。「コロナのせいでなく、天災に備えた経営ができなかった私の責任。従業員にも柴又にも迷惑を掛けないよう、余力のあるうちにやめようと思った」と決断。「もともと減少傾向にあった冠婚葬祭に伴う宴会がコロナでなくなった。以前のように頻繁に宴会があった時代にはもう戻らないとの判断もあった」と話す口調には寂しさが漂った。

 1988年、くも膜下出血で先代の父が急逝し、店を受け継いでから三十余年。「店を守れなかった」と柴又帝釈天にある父や先祖の墓前でわびた。江戸時代から続く名店が31日、最後の一日を迎える。それでも天宮さんは「特別な日とは思っていない。一日一日、大切なのは同じ」と、普段と変わらぬ気持ちで店に立つつもりだ。

 《寅さん実家モデルの団子店「帝釈天がある限り…」》柴又の商店街も、シンボルだった川甚の閉店にショックを受けている。帝釈天参道沿いに店を構え、寅さん(故渥美清さん)の実家のモデルになった団子店「高木屋老舗」の女将、石川雅子さんは「柴又といえば川甚さん。とても驚いたし、残念でした」と肩を落とした。柴又はここ1年で観光バスの往来が減り、参道を歩く人もまばら。それでも石川さんは「苦しいですが、帝釈天の門が開いている限り、我々はお参りする人を迎えるのが仕事。帝釈天がある限り、店は続けます」と力強く話した。

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