【内田雅也の追球】四球生む「心の余裕」 阪神・岡田監督は2月のキャンプで打者を集めて訓示をしていた

[ 2023年4月6日 08:00 ]

4日の試合で3四球を選んだ佐藤輝
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 打撃姿勢というのは監督やコーチの指導で変わる。いや変えられる。

 映画にもなったマイケル・ルイスの『マネー・ボール』(ランダムハウス講談社)に名フロントマンのサンディ・アルダーソンが組織内に示した打撃の鉄則が出てくる。

 (1)「出塁を最大の目標とせよ」、(2)「本塁打を打つパワーを養え」、そして(3)にこうある。「プロ野球選手になれるだけの天賦の才がある以上、打撃は肉体面より精神面に深くかかっていると心得よ。少なくとも教わることができるのは、精神的な要素のみである」

 新体制となった阪神で監督・岡田彰布はじめ、打撃コーチ・今岡真訪、水口栄二らはむろん技術指導は行うのだが、大きな効果を生んでいるのが精神面の指導だろう。

 岡田は2月のキャンプ中、打者を集めて訓示している。「2ストライクになってもストライクゾーンは変わらんのやで」

 追い込まれるのを恐れての早打ちやボール球を振っての三振や凡打を戒めるため、2ストライク後の心の余裕を説いた。

 自身は初球打ちをめったにせず、2ストライク後の本塁打率(何打数に1本、本塁打を打つか)で王貞治をしのいだ「遅打ち」だった。

 開幕すると、打撃好調もあって4連勝。顕著なのは四球数が飛び抜けて多いことだ。24個は2位の巨人13個を引き離し、最少の広島は3個しかない。四球数に応じるように打率・304も出塁率・398もリーグトップだ=成績は4日現在=。

 何度か書いたが、オープン戦中に今岡が「今季は四球が増える」と話した予言が的中している。

 4日広島戦では佐藤輝明がプロ入り初の1試合3四球を選んだ。3個とも3ボール2ストライクから低め変化球を見極めた四球で、昨季までなら空振り三振だったろう。打ちたい気持ちを抑えて一塁に歩く。心が安定しているように映る。

 岡田に現役時代、四球時の心境を聞くと「オレの勝ちやと思って一塁に向かったよ」と話した。リーグ最多の7四球の佐藤輝もそんな感じか。

 雨が降る前に比治山まで歩いた。桜が満開を迎えていた。この標高約70メートルの小高い丘のふもとで張本勲(本紙評論家)は少年時代を過ごした。

 「がむしゃらさに冷静さが必要。欲望60%、無欲40%の割合で打っていた。多少てんぐなぐらいがちょうどいい」張本の言う打席での心構えを思い出した。=敬称略=(編集委員)

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