進化する野球界で「沢村賞投手」は絶滅寸前なのだろうか

[ 2019年10月1日 09:00 ]

昨年、沢村賞を受賞した巨人・菅野
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 【君島圭介のスポーツと人間】プロ野球の投手個人に与えられる最高の名誉が沢村賞だ。日本初の「エース」沢村栄治の名を冠し、歴代受賞者も杉下茂、金田正一、村山実、斎藤雅樹らそうそうたる面々だ。

 ところが近年は選考が難航する。(1)登板試合数25試合以上(2)完投試合数10試合以上(3)勝利数15勝以上(4)勝率6割以上(5)投球回数200イニング以上(6)奪三振150個以上(7)防御率2・50以下、82年から適用されているこの基準を満たせないケースが増えたからだ。

 最近10年で7項目すべての条件をクリアした投手は09年の涌井秀章(西武)、11年の田中将大(楽天)、そして昨年の菅野智之(巨人)だけ。とくに完投試合数がクリアできないケースがほとんどだ。

 全日程が終了し、今季の完投数は広島・大瀬良の6試合が最多。分業制が確立し、どのチームも専任のセットアッパーとクローザーを準備している。「6回・自責点3以下」のクオリティースタート(QS)の概念も浸透し、17年から沢村賞の選考基準に補足項目として導入された。だからと言って、ブルペン陣に毎日頼るのは酷だ。大瀬良のチームへの貢献度が分かる。

 分業制以上に深刻なのが、投手の能力アップによる球数制限だ。現在の各球団のエース級が歴代の沢村賞受賞者と比べて小粒かといえば違う。むしろ鍛え抜かれた豪腕が繰り出す平均球速も変化球の種類の多さも今の投手の方が上だ。1球に対する肉体的負担はかつての名投手より重い。矛盾するが、その投手の進化が完投能力を下げている。

 完投数を基準として重視するのが難しくなり、QSで評価を補足する必要が生じた。だからこそ、あえてボーナスポイントとして加算して欲しい別の項目がある。「完封」だ。

 監督の心情としてエース級の投手が無失点を続けていれば交代を告げにくい。完封に価値を置けば、DeNA・今永の「3完封」は大きな評価に変わる。DeNAは投手の分業制に積極的な球団だが、今季の今永の3完投中3完封という数字を見れば、ラミレス監督がエース左腕に求めたものが見えてくる。

 今永の3完封はまさに本来あるべきエースの貫録を示した形だ。「無安打無得点試合」も別格だ。今季は中日・大野雄とソフトバンク・千賀が達成したが、完封数では今永が最多だ。

 今年は両リーグ最多勝の巨人・山口と日本ハム・有原が筆頭候補で、227奪三振と無安打無得点試合を達成した千賀が有力な対抗候補だろう。ただ、大瀬良と今永が絶滅寸前のエースを体現しようと奮闘してきたことは忘れたくない。(専門委員)

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