山梨学院 延長12回、140球の裏にあった葛藤

[ 2019年8月10日 19:09 ]

第101回全国高校野球選手権大会 1回戦   山梨学院2―3熊本工 ( 2019年8月10日    甲子園 )

<熊本工・山梨学院>12回1死、熱闘むなしく熊本工・山口(右)にサヨナラ本塁打を浴びる山梨学院・相沢(撮影・木村 揚輔)
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 しばらく、動くことができなかった。中堅フェンスの向こうで弾んだ白球。山梨学院の主将でもあり左腕の相沢俊投手(3年)は、その瞬間を見届けると、両膝に手をついた。一度、下を向き、顔を上げてから約20秒…。バックスクリーン付近の着弾点に視線を送り続けた。

 「入るな、と思って見ていたけど…。頭が真っ白になって」。延長12回、サヨナラ弾となった運命の140球目は、124キロの直球だった。「気持ちを抜いていたわけじゃない。少しコースが甘くなった。自分の甘さです」。ようやく腰を伸ばして帽子を取ると、相沢は天を仰ぎ、嗚咽した。

 手負いのチーム事情からの「完投」だった。山梨大会は継投で勝ち上がった。同じ3年生の右腕・佐藤裕士(3年)が、相沢より1試合多い4試合に登板し、14回1/3を投げ1失点。その右腕を試合直前、アクシデントが襲った。開会式後、右肘に違和感を感じた佐藤が病院で検査を受けると、疲労骨折の診断。「とても投げられる状況じゃなかった。投げきったことはないけど、きょうは佐藤を助けてやろうと思った」と中学時代もチームメートだった相沢は、そう誓った。

 4回に同点も、9回まで6安打2失点。107球の好ペースだった。一方で7回には、自身にも左ふくらはぎのけいれんというアクシデント。「少し相沢に異変は感じていた。なので“水を飲ませてくれ”と審判に伝えた。審判も受け入れてくれました」。吉田洸二監督の指摘で、2死走者なしからタイムがかけられ、相沢は三塁線付近でペットボトルの水を口にした。8回の攻撃中は理学療法士の指導で体を冷やし、ストレッチなどのケアを行った。指揮官は「もう一度、異変が起きたら交代という話は審判からされていた。もちろん自分もそのつもりだった」と第3者の判断を優先する意向だったと明かした。

 延長12回。無情の打球がバックスクリーンへ。「自分が打たれてしまって申し訳ないけど、悔いはない。今までやってきたことを出せた試合だった」。相沢の負傷した佐藤の思いも込めた140球の熱投は、勝利に届かず。吉田洸二監督は「主将の相沢が3年間の集大成を見せてくれた」と称えた。

 開会式後、試合直前の主力投手の負傷発覚。吉田監督は複数投手を用意して臨んだが、予期しなかった突然のアクシデントだった。「自分はエースと心中というキャラの監督じゃないけど、きょうはもう、仕方なかった」。苦渋の表情で口にした、延長敗戦の裏にあった葛藤だった。

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